興奮醒めやらぬ夏の校庭から、保健室へと退場して行く柿崎先輩とさやか。
「キャー!ホントに『伊達荷物』だー!」
「お似合いよ!真面目くさって教師の味方の伊達さんなんて、このまま戻ってこなくて…。」
口々に一年女子を中心に妹の中傷の声が上がる。
さやかは責められて当然かもしれないけど…。
「ちょっと、あんたらそれ以上言うたら…。」
グループの中心に飛びかかろうとする美空ちゃんを、制した一際大きな影。
「お前ら、言いたいことは俺が聞いて直接伝えてやるよ!
言ってみな!」
「赤松くん!?
いえ、私は伊達さんをその…。」
「美空、もっと女らしくなれよ!男出来ねーぞ!」
「うん、ホンマやなぁ、あんたみたいに早よ男作らななぁ~?」
「だからヤバイのは安国寺で俺はストレートだ!」
****
「はい、これでOKよ。
最近の子の運動能力の低下は深刻ね。
コケたらすぐ顔にケガするんだから。」
保健の神保先生に下口唇を消毒され、ガーゼを当てられました。
「食事と歯磨きとキスには暫く不便でしょうけど?」
「先生、こっちを見ないで下さい!
俺は連れてきただけです。」
「わけありみたいね、あなた達。
いいわ、校庭では真理亜が理解の無い同僚相手に孤軍奮闘してるみたいだから助っ人に行くわ。
ゆっくり二人で解決しなさい。」
「ちょっと、神保先生!」
柿崎先輩は私に言いました。
「『柳生さんの話が長くて、貧血で倒れそうだったから、早く切り上げて、と言おうとしたら躓いた。』
さやかちゃんがそう主張したいなら、俺はその通り受け止めるさ…。」
何かを悟ったような、そして全てを諦めたような先輩の表情でした。
そして搾り出すように…。
「ごめん…。」
と言われました。
その一言が引き金となり、堰を切ったように私は泣き出した。
「…謝られたら…余計に惨めです…。」
「わからなかったわけじゃないんだ。
どこかでさやかちゃんを見ないようにしていた。
内藤先輩が俺を名指しした時に、やっと全てに納得したよ。」
終わった。
私の気持ちもバレて、自分の柳生先輩への気持ちを私が知っていることも見抜いてる。
私は先輩から目を逸らしながら…。
「本当に今までありがとうございました。
柿崎先輩。
今日はもう早退します。」
「パシーン!」
ガーゼが貼られた上から柿崎先輩の平手打ち!
「逃げるな!
君は選挙演説を続けるんだ!」