赤松くんも内藤先輩も仕事を終えて、私と柳生先輩二人きりで生徒会室に居た。
明日の全校集会の演説の原稿仕上げて、三好先生にチェックしてもらう為です。
私は立候補を表明したあの日以来、何だか気まずくて柳生先輩とまともに話が出来てなかった。
柳生先輩には何の恨みもないんだけど…。
黙々と筆を進める柳生先輩はよほど全生徒と学校に伝えたい想いがあるのだろう。
それに比べて私は…。
「…ありがとうね…、さやかちゃん…。」
書きながら小さな声で呟いた柳生先輩。
わずかに聞き取れる声に私は思わず反応した。
「は、はい!すみません私、聞いてませんでした。」
「やだ私、声に出してた?
ごめんね、さやかちゃん。」
「何がありがとうなんですか?」
「聞いてるじゃない。
うん、私ね、さやかちゃんが立候補してくれて本当に良かったなって。」
柳生先輩は本当に嬉しそうな笑顔で私に語りかけてくれました。
女の私でもドキッとしそうになるぐらい、和むような、癒されるような笑顔でした。
「私が何かしましたか?」
「うん、あの日さやかちゃんに真樹ちゃんと軽音部のことを指摘されてわかったの。
私、真樹ちゃんが友達だからって怒り心頭で選挙に訴えようとしてたんだなって。」
柳生先輩…。先輩にそんなこと言われたら私の方こそ個人的な感情かもしれないのに…。
「ずっと皆と仲良しでいたいって思ってた。
ずっといつまでも一緒にいれると思ってた。
でも男子の試合で、違う意見が対立する中で尊敬しあえる仲間で居るのって大変だなぁって思ったの。
さやかちゃんが真正面から私にぶつかってくれたから、私は何が大切なのかわかった。
真樹ちゃんや軽音部だけの問題じゃない!
私は生徒みんなを守りたい!
その為にはどんなことにも屈しない!
そう、三好先生みたいな教師になるために!」
柳生先輩は将来の明確なビジョンを強く持っていた。
私とは大違いだ。
「生徒会を勧めてくれたのは、私に大切な物を護る意味を教えたかったんだと思う。
選挙より先に、一番大切な人が出来たけどね♪
だから私は明日の演説が夢の第一歩って思ってるの。
いい勝負しようね、さやかちゃん!」
私、私は…そこまでの覚悟もないかもしれない。
あるのはただ…あの人の優しさを無駄にしたくないだけ…。
「も、もし相良先輩がプロ選手になったら、学校の先生って…。」
「優矢くんも私の夢を後押ししてくれるって」