「勢いに任せてサボったものの…ゲームは連敗、タバコは吸い方がわからない。
どう?堕ちるのも楽じゃないだろう?」
「別に俺は…。
ゴホッ、ゲフッ!」
「いきなり肺に入れるから…。
まぁ、初心者は殆どそうなるから気にすることないよ…。
それより付いてきなよ!
暇つぶしの仕方がわからないんだろう?」
「何ですか?
こんな空き地に?」
「きっと瑞穂や真田くんの今までのやり方なら…面白可笑しいお色気いっぱいの『賭けサッカー』で赤松くんの自覚を促すんだろうけど…。おそらくそれは逆効果だね。
君は今、サッカーから離れることで、サッカーを知る必要があるね…。」
「で、こんな所で何をするつもりですか?」
「僕は赤松くんを殴ったからね…。
君は『仕返し』をする権利がある。
どう?僕を殴れる?」
「…挑発には乗りませんよ!
そんなことで俺に何のメリットが…。」
「メリット?
そうだね、赤松くんが僕に殴られる可能性を回避出来るかもね。」
「脅迫じゃないですか!?
やらなきゃやられるってことですか?」
「そのとおり。僕はいつ攻撃を仕掛けるかわからないよ…。」
「そんな…ケガしても知りませんよ!」
「やる気になったね!いいよ…。」
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「あ、当たらない…。」
「これがフットワークだよ。アウトボクサーの真骨頂さ。
ボクシングは決して『殴りあい』じゃない。
『殴られない』為の神聖なる『スポーツ』だからね。」
「そんなボクシングが大事なら、片倉先輩は何で不良になって、何でサッカーを始めたんですか?
ボクシングは?」
「一発僕に入れられたら答えてもいいよ。
『漢同士は拳で語り合う』って言うけど、弱き者しか殴れない君はまず『漢』になる必要がある。」
「ハァハァ、片倉先輩のフォワードとしての視界から消える動きは、このボクシングのステップが基本になってるんですか?」
「今わかった?そうだよ。ボールとゴールだけを見るばかりじゃない。
敵と味方の動きを観察するのもフォワードの役目と思うんだ。」
「…それが言いたいが為に?」
「赤松くん、サッカーは嫌いじゃないだろう?」
「わからない。サッカー無しの自分なんて考えられないから…。」
「柿崎くんに申し訳無いと思ってるのに言い出せないだけだろう?」
「だってあの時、あんなに血が出て…。ホントは謝りたいのに…。」
「君にこの世界はまだ早い。
帰れる場所がある。」