「おい、柿崎!大丈夫かよ?」
「オィ~ス、相良。
一人か?」
「一人か?じゃねえーよ!
右腕包帯ぐるぐる巻きなのに普通に振る舞うなよ!」
「別に。
普通だよ。で、柳生ちゃんは?」
「朝は別々だよ。
それがどうした?」
「いや、ただの挨拶だよ。
いつもお前ら一緒だからな。
この手のおかげで支度に時間がかかったから、いつも見かけないお前を見たわけさ。」
「で、怪我の具合は?」
「皮膚の上っ面切っただけで怪我に入らんさ。
中学の時にはもっと…。
まぁ大会はオジャンだが、背番号さえもらってない俺にはあまり変わらないさ…。」
「そうか…。」
柿崎にかける言葉が見つからなかった。
怪我に関係なく、ベンチに入れない選手は柿崎だけじゃない。
俺だって、同学年の小菅が10番を貰った時は悔しかったさ。
もしも来年の今、柿崎が最後の夏で、レギュラーとしてこの怪我をしていたら…。
悔しさは比べモノにならないだろう。
そして、スポーツ選手として自分が控えなら、レギュラーの怪我をチャンスと思う気持ちも要求される…。
柿崎は言葉に出さないが、例え超える目標が榎田先輩、真田先輩という双璧を成す絶対的な守護神であれ、自分が割って入りたい気持ちが必ずあったはずだ。
俺ならそう思う。
その時点で諦めた奴は退部した方がいい。
「相良…。」
「何だ?」
「頑張れよ。」
「どうした?急に。」
「お前は二年の星だから…。
三年からレギュラーを奪えなかった二年の期待、怪我した俺の期待、ドイツへ行った小菅の期待、お前に背負わせてやるよ(笑)。」
「やめろよ、ただでさえ俺、小さいのに、また縮むだろ(笑)。」
「益々、柳生ちゃんを見上げろよ(笑)。」
「部活には顔出せよ。
伊達…じゃない、さやかちゃんが心配するからな!」
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生徒指導室
「そんな!
横暴です!
今回のことは軽音部と関係ありません!私個人が混乱を招いて…」
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ロッカールームで泣きながら私に事情を話す真樹ちゃん。
「『グリーンライフ』は他校の生徒や社会人、大学生と結成したバンドなのに…。
刺傷事件が起きたからって、軽音部が解散なんて、意味わからないよ…。」
私、柳生恵里菜に「怒り」という感情があるのを認識したのは、この日の為かもしれません。
「大丈夫よ、真樹ちゃん。
真樹ちゃんと軽音部は私が絶対に守るから…。
生徒会選挙の公約が決まったわ。」