「茉奈ちゃん、不用意に仕掛けないで!
コースを切って!」
「さすが山名先輩やなぁ。
ライン際に追い詰めて伊東先輩と1vs2で奪うつもりやろうけど、ウチがそうさせへんで!
こっちや!」
左足から放たれたスルーパスに絶妙な反応を見せた美空ちゃん。
初めてのコンビとは思えない。
サイドバックも中盤もこなせる彼女はホントに貴重だわ。
「みんな落ち着きなさい!
慌てて飛びださなくてよ!」
南部先輩は男子との練習に参加してる為にディフェンスリーダーの最上先輩が詰め寄る。
しかし、「彼女」は冷静に…。
「確かに落ち着きは必要ですね。
でも、さやかは飛び出した方がいいわよ!」
最上先輩のスライディングをボールを浮かせてかわし、飛び出しが遅れたキーパーの伊達ちゃんのファーサイドを正確に貫くシュートが決まった!
「まだまだね、さやか。
今のは最上先輩のスライディングをかわした瞬間がチャンスだったのに!
キーパーは手が使える利点を活かさなきゃ!」
彼女の「デビュー」を優矢くんと一緒に見れなくて残念です。
だってこの衝撃を言葉で伝えらるはずありません。
「あ~あ、男子のゴールデンルーキーは赤松くんで、女子はウチや思うとってんけど、いきなりこんなん見せられたら、ウチの活躍なんて霞んでまうなぁ。」
「そんなことないよ。
大谷さんはホントにパスを出したいトコに飛び出してくれるから…ゴホッ、ゴホッ」
「やっぱ無理したんか?
いきなり飛ばし過ぎや!」
「まどかのバカ!
トップギアは試合だけって言ってたのに!」
「ごめん、さやか。さやか相手にシュート出来るなんて、嬉しくてつい…。」
そう、期末試験明けの今日、ついに一年生の最後の部員、伊達まどかちゃんが合流した。
左足一本で半レギュラーとはいえ、ウチのディフェンス陣を翻弄したテクニックは凄いです。
これにはあの高坂先輩も…。
「伊達まどか。
お前を名前だけでも大会にエントリーしておいて良かった…。
スタミナには不安があるなら暫くはスーパーサブだな…。
大事な局面ではお前を投入するように、真田に伝えておこう…。」
「中島主将、これって…?」
「柳生ちゃん、瑞穂がここまで誉めるなんてありえないよ。」
私は今気付きました。
柔らかいボールタッチ。広い視野。
味方を活かす知性。
それは右足と左足。男性と女性を入れ替えた小菅健吾くんのプレースタイルにそっくりだったのです。