女子ロッカールームはいつの間にか私と柿崎先輩のマンツーマンの勉強部屋になってました。
意識し過ぎな私に対して淡々と勉強に打ち込む柿崎先輩。
サッカーの時と同じで真剣なその表情にますます私は…。
でも全く私を意識しないってのも…どうなんだろ?
「あぁ、違います。IndirectlyのInは『中』じゃなくて否定の意味で、『直接』にInをつけることで、反対の意味になるんです。
だから『直接』の反対は?」
「間接?」
「大正解です!
この法則けっこう使えますよ。Sensitiveの反対のInsensitiveとか。」
「それってどういう意味?」
「先輩みたいな人です!」
「なんだよ、どうせ悪口だな(笑)。
ありがとう伊達ちゃん。
今日は遅いし、これくらいにしようぜ。」
「は、はい。ありがとうございました。」
「今日は伊達ちゃんがコーチだよ。
俺の方がありがとうございましただよ。
さっ、帰ろうぜ!クレープでも奢るよ。」
「えっ、先輩と?」
「悪ぃ、予定あった?」
そうじゃないんです!
まさか下校まで先輩と一緒だなんて!
柿崎先輩はホントに気にしないんですか?
そんなに私は意識されない子供なんですか?
「じゃ、このイチゴティラミス入り下さい。」
私には何もかも初めて。
同じ通学路が別世界だわ…。
「DVD観ましたよ!ホントに凄いキーパーですね!」
「あぁ、レッスンビデオとか見ずにプロになった選手も、シュマイケルのビデオは持ってるって話だぜ。」
「柿崎先輩も?」
「あぁ、俺もあと観るのは自分の試合のビデオくらいだな。」
「えっ?先輩のビデオ?観たいです!絶対貸して下さい!」
「しまった、オウンゴールしたな(笑)。
だったら、伊達ちゃんも演劇部なら自分のビデオとかあるだろ?貸してくれよ!」
駄目ですよ、昔の私なんて…。
でも嬉しい…私が演劇部って憶えてくれてたなんて…。
「先輩が英語で平均点越えたら貸してもいいですよ!」
「わかった!約束だぜ!」
「それと…さやかじゃ駄目ですか?」
「え?」
「テスト後には姉のまどかが復帰します。同じ伊達ですから…。」
「わかった。」
「クレープごちそうさまでした。
じゃ、テスト頑張ってくださいね。
あっ、包み紙捨てときまーす。」
と言いながら大切に持ち帰った記念の包み紙。
それに私はサインした。
Insensitive無神経!
完