真樹ちゃんは悩んでます。
当然です。三本目は真ん中。
そもそもPK戦において、真ん中に蹴るとは「裏をかく」為に蹴るです。
今回の様にあらかじめコースを指定するPK戦(そもそもこれは新米キーパーの伊達さやかの初心者練習)では真ん中に蹴る事は自滅行為です。
キーパーの伊達ちゃんは中央に飛んで来るボールを動かずに止めれば良いだけです。
ここは真樹ちゃんの手の内を参考に出来るのは後攻の私の役得です。
「…ようし、宇都宮、三本目、真ん中に行きま~す!」
熟考の末、前の二本より長い助走を取った真樹ちゃん。
やはり力任せのシュートで、伊達ちゃんが防ぐのを百も承知で押し込むつもりです。
「行っけ~!!…と見せかけて…は~い、ど~ぞ♪」
長い助走からの急ブレーキ!
そして伊達ちゃんの構えが崩れた所にタイミングを外す緩いシュート!
…トッティばりのチップキックです。
「ボールがまだ来ない…。
ずるいです、先輩!」
「入った~!
ごめんね、伊達ちゃん。
でも真ん中には違い ないよね~?」
か、完全にやられたです…。
真樹ちゃんはいつの間にこんな技を…。
ど、どうするですか?
真樹ちゃんの真似をしてすぐ出来るものではないです。
しかし、力任せに蹴っても…。
「里見、三本目、真ん中行くです!」
決断が出来ないまま中途半端な助走をしていると…。
「ギリギリまで動くなよ、最後まで見極めるんだ!」
「動きたくてもどうせ私、動けません!」
コーチ役の柿崎くんと伊達ちゃんのやり取りが耳に入ってしまったです!
蹴るタイミングも助走の勢いを殺してしまい、力ないボールは…。
(伊達ちゃんは動かなかったです!)
「えい!」
力強く握りしめた両の拳でしっかりと弾かれたです!
「やりました~!
柿崎先輩!
私、自分の力で止めましたー!」
「よくやった!伊達ちゃん!
裏をかいたつもりの勢いの無いボールでも、君が里見さんのシュートを止めたのは違いないよ!」
「ありがとうございます、柿崎先輩!
私、私、サッカー始めて良かった…。」
まるで優勝した様な喜びです…。
「ふ~ん、愛ちゃんって優しいんだね♪誰かさんも喜びそう♪」
我慢ですー!
今のは集中力を欠いた私のミスです。
言い訳はしないです。
宇都宮○×○
里見 ○○×
「四本目、右下、宇都宮、行きま~す!」
右足で自分の右手方向に蹴るのはいきおが殺されて難しいはずです。