駅までの帰り道
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「ピカソの写実的なデッサン力を知らない日本人は、晩年の抽象画ばかりを…。」
「西九条くんて、絵だけじゃなくて、美術史にも詳しいんだぁ~。」
「ごめん、つまんないよな。
こんな話。俺って夢中になると回りが見えなくて…。」
「ううん、西九条くんのお話面白いよ。
それに私ね、孤高っていうか、周りを気にせずに自分の才能を信じて独自の道を進む人の方が、変に空気読む人より好感持てるかな?」
「そうか、俺は世間一般で言う『空気読まない』には自信あるぞ。」
「うん、わかる、わかる(笑)。」
…私は賭けに負けた。
西九条くんに、一緒にライヴに行く友達が居ないことを知ってながら、私はわざとチケットを二枚渡した。
誘う男友達なら大勝利、そして相手が愛ちゃんなら…大惨敗と思ってた。
だからもう、たった今勝負をかけないと…。
「ねぇ、西九条くん。
何で私がサッカー始めたか知ってる?」
「『孤高の』天才、高坂さんの存在かな?」
「うん、正解。
ホントにね、特撮映画みたいなプレー簡単にやってのけて、超カッコイイんだよー!
…じゃあ、あの噂も?」
「どこの学校にもあるくだらない噂だろ?
誰とも付き合いたがらない学園のマドンナが同性愛者なんて。宇都宮さんもいい迷惑だな。」
「噂が本当だったら…?
私が女性の高坂先輩を本気で好きって言ったら?」
…どうせいつかわかること…。
早めにカミングアウトすることで、西九条くんとの距離感を縮めたいな。
それに高坂先輩には片倉先輩が居るんだし、今の私には関係ない。
今の私は…高坂先輩と同じく人を寄せ付けない西九条くんの眼差しが…。
それには愛ちゃんとの距離が縮まるより先に…。
「好きなのか?」
相変わらずの粗っぽい言い方…。
気に入られようとしない態度が気に入ったかも。
「うん、正確には過去形かな?
高坂先輩は今、彼氏居るから…。
ねぇ、変な女の子って思った?」
「別に。
過去に同性だろうが、天才サッカー少女だろうが、誰を好きになっていようが、今の宇都宮さんと俺との『友情』に関係ない。」
…えっ?今…なんて?
聞き間違えじゃないよね…。
そっかぁ、「友情」かぁ…。
やっぱり過去に同性を好きになった女なんて駄目だよね?
それとも、やっぱり私なんかより愛ちゃんのことを…。
あ~あ、ボロ負けだな私…。
「ライヴには来てね。
西九条くんの為に唄うから」
続