一時間ほど前
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「ゆ、友情を感じてない相手と、一緒にライヴを観に行く意味が私には理解出来ないです!」
これではっきりしたです。
西九条くんには私を想う気持ちなど、微塵もないのです。
「宇都宮さんの厚意を無駄にしたくないからな。
静寂を愛する俺には、狭くて、うるさい場所で音楽を聴く者の気持ちが理解できないが…里見さんと一緒なら行ってもいいかなと。」
いい加減に腹が立つです。
真樹ちゃんとの仲を深める為としか私のことを考えてないです!
「私は石膏像でも、人形素体でもないです。
一人の女の子です!
何でもかんでも自分の思い通りになると思ったら大間違いです!
失礼するです!」
「帰るのかい?
じゃあ、一緒に帰ろう!」
何を勝手に都合の良いこと言うですか!
男子と一緒に下校するのは私の夢です!真樹ちゃんを好きな西九条くんが初めての下校相手なんて絶対嫌です!
とにかく逃げるです!
「まだ帰らないです!
サッカー部に行くだけです。」
「お、おい!返事は?
走るなよ!君は足が早いな!」
「さっさと、真樹ちゃんにフラレるがいいです~!」
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女子サッカー部ロッカー室。
あんな事を言ったから天罰です。
私は今世紀最大のアホです。
思えば考慮に入れるべき可能性でした。
私が西九条くんを嫌悪しても、真樹ちゃんまで西九条くんを嫌悪するとは限らなかったのです。
まさか真樹ちゃんも西九条くんを好きとは…。
いえ、この場合の「も」とは西九条くんとの双方向を示すもので、決して私と真樹ちゃんの感情が類似してるわけでは…って、私は誰に説明してるですかー!
「ねぇ、愛ちゃん。用務員さんに怒られるよ!遅いから帰ろうよ!」
鍵を持って中から施錠したから、恵里菜はドアを叩きながら私に説得しているです。
…涙も枯れ果てたです…。
帰るとするです。
「…よっぽど好きだったんだね…?」
「な、何を言ってるですか!
あり得な…泣きながら部室に立て籠っても説得力ないです。
はい、どうせその通りです!
相思相愛の二人にはお邪魔な恋をしたです!
しかも私は、『友情を感じていない』と友達以下の扱いをされたです!
まんまと利用されて二人のハッピーエンドに貢献しただけです!」
「真樹ちゃんの気持ち、西九条くんの気持ち…。
でも私、一番大切なのは愛ちゃん自身の気持ちだと思うの!
人を好きになるって素晴らしいことだよ。」
恵里菜…