初夏の到来を思わせる6月の午後の日差し。
練習の手を止めて話しかけられるのは嬉しい。
暑さと湿気によって奪われた体力を回復出来るから。
でも…榎田先輩が私に何の用?
二人きりって状況に、マンツーマンのキーパー練習とは違った雰囲気にドキドキする。
他校のサッカー部の男子と別れ、その事を片倉先輩に相談してる内にその先輩に想いを寄せた私。
私への返事を保留したまま、片倉先輩はドイツで高坂先輩と付き合ってしまったわけで…。
そんな遍歴を経て、結城翔子はもう榎田先輩に何の未練もないはずなのに…。
間近で見るとドキドキするな…。
女子では背の高い部類の私が見上げるほどの長身。
そして、生徒指導の竹中に何度注意されても切らない長髪。
これで県下屈指の全国レベルのゴールキーパーで、片倉先輩と双璧を成す元不良で、実家は超大金持ち!
どんだけハイスペックなの??
そりゃ、三好先生の未来の旦那様にふさわしいわけだ…。なんてあり得ないファンタジー展開(笑)。
「俺、考えたけど、これが現実的な選択と思うんだ。」
なっ…、榎田先輩、いきなり何ですか?
ま、まっ、まさか、教師と生徒という禁断の関係を諦めて私という「現実的な選択」をするってこと?
だ、駄目ですよ先輩!
「誤解しないでくれ、これは決して身代わりとかそういうんじゃない!」
み、身代わり?ヒドイです榎田先輩!
それって、三好先生と別れずに私と付き合ってほしいってこと?
片倉先輩にフラれた傷がやっと癒えたと思ったら…。
「…私は二番目の女ですか?」
うわぁ~、愛ちゃんが好きそうな少女漫画のセリフをまさか自分が言うとは!
「そんなことは無い!結城ちゃんが一番だよ!」
何てヒドイ人!三好先生が一番のクセによくもそんな!
「私にもプライドがあります。」
「勿論さ!
だが俺は真田が控えてるから頑張れるように、女子チームにも控えキーパーが必要なんだ!」
「…は?」
うわぁ、私、絶対今アホ面してるわ…。
「勿論、正ゴールキーパーは結城ちゃんさ!
だが、俺と真田は、運動音痴ながらも起死回生の反射神経を発揮した伊達さやかちゃんにキーパーの適性を見たんだ!
俺と真田、二年生キーパーの柿崎も含めて、伊達ちゃんをキーパーとして育てたいんだ!」
…サッカーの話だったんだ…。
当たり前かな?
「どうして私にその話を?」
「正守護神のプライドの尊重さ。」
先輩のバカ…!