「片倉先輩…?」
「いいの?ホントにこれが小菅くんにとって最後の最後だよ?」
いつもの静かな微笑みで、片倉先輩は小菅に選択を迫った。
誰もが知っていることだ。
きっと小菅は高坂先輩に対してサッカーの師匠以上の気持ちがあることを。
ドイツの一件以来、片倉先輩と高坂先輩は周囲が羨むくらいの素敵なカップルになったけど…小菅の胸中はどうだろう?
確かに俺も少しはプレーヤーとしての高坂先輩には憧れていた。ドイツの大学生から腕力勝負では先輩を守れなくて、同じ場に居た小菅も同じ想いをしたわけで…。
「ありがとうございます、片倉先輩。
わかってますよ、本当にこれが最後ですからね。
そう思って僕の方からも、この素敵な送別会へのお返しがあります。
すみませーん!
あれ、持ってきて下さい!」
会場となった榎田邸の使用人に頼み事をする小菅。
玄関であらかじめ小菅が預けていた品物は…。
美しい紫の花束だった。
「うわぁ~、綺麗!」
女子のみんなから歓声が上がる。
「花屋でバイトしてる僕の姉ちゃんが選んでくれたんです。
高坂先輩、片倉先輩と一緒に受け取って下さい!」
綺麗な花束を前に照れて戸惑う高坂先輩。
「私がか?
すまない、この後、みんなからお前に花束を用意してて、私か三好先生が渡す予定があったのに…。」
いつになく恥ずかしがる高坂先輩は滅多に見れない光景だ。
宇都宮さんや伊東茉奈ちゃんが可愛いと声を上げる。
「それはそれ、これはこれだよ、瑞穂。
小菅くんの気持ちだ、受け取ろう。
この紫は白ブドウに咲くアイレンの花…。
グレープ味が好きな瑞穂にぴったりかな?」
「私の好みに合わせて…。ありがとう…。」
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女子トイレ
「瑞穂、知ってる?」
「何のことだ京子?」
「アイレンの花言葉って、『幸せになってください』よ!
選んでもらったって言いながら、小菅くんもやるわね。」
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男子トイレ
「どうしたの?真田くん?」
「イヤ、片倉は知ってて言わなかったのかな?ってな…。」
「さすが真田くんだね。
僕は元不良だよ(笑)。
瑞穂に言うつもりはないさ(笑)。」
「俺もそれがベストと思う。」
「瑞穂は想いを言葉にするのは苦手な子だから…。
最後の言葉は真田くんがきっちり小菅くんに…。」
「あぁ、わかってるさ…。」
アイレンの花のもう一つの花言葉…。
『わたしもあなたが好きでした。』