「士郎と相良か…。
面白い…。
小菅!『早さ』とは何かしっかり見ておけ!
士郎!」
高坂先輩は片倉先輩にパスを出した。
2vs2だからパスの選択肢はひとつしかない。
俺は片倉先輩よりも早くボールに追いつくはずだったが…。
「瑞穂!」
先に片倉先輩がボールをキープし、追いついた頃には再び高坂先輩にリターンされている。
小菅も高坂先輩からボールを奪えず、俺達は先輩達のパス回しに翻弄された。
「どうして…。
僕はともかく、相良が片倉先輩に追い付けないなんて…。」
小菅の驚きより俺が一番驚いている!
スピードなら俺はチーム最強の自信があったのに!
「確かに単純な足の速さなら、相良と対等な勝負できるのは島くらいだ…。
だが、片倉には飛び出しのタイミング、マークを外す狡猾さ、何よりも『一歩目の早さ』で相良を振り切っているのだ…。
野球に例えるならベースランニングが早いのが相良で、士郎は盗塁が上手いということだ…。
足の遅さを憂うなら、無駄な動きを減らせ…。
それだけでお前は早くなる…。
相良!お前も聞いてるな!」
完全に二人の先輩に遊ばれたよ!
片倉先輩の「早さ」がここまでとは思わなかったよ!
「…瑞穂が僕の動き出しに配慮したパスをしてくれるからね。
シュートもパスも苦手な僕はみんなに活かされてるんだよ。
小菅くんなら、『仲間をスターさせる』パスを出せるプロ選手になれると思うよ。」
周りを活かす…。そうだ、俺はいつも小菅に活かされていたんだ!
快足自慢もドリブルテクニックも、小菅がピッチ上の指揮者としてタクトを振り続けたからだ!
先にレギュラーを取ったのもお前の方だったが、先にプロになったのも…。
絶対俺だって…!
「…士郎の言う通りだ…。
小菅、味方が取りやすい優しいパスはお前の存在意義そのものだ…。
私はお前より味方に厳しいからな…。
その点だけはお前は私を越えている…。」
「…僕が高坂先輩に勝ってる所なんて…。」
「自信を持て!
『私の最高のプレーはお前を育てたことだ』と、言わせるような活躍をドイツでしてみせろ!
最後のはなむけだ。
止めて見せろ!
メッシイリュージョン!」
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「で、せっかくの高坂先輩の神業を何で優矢くんがファウルで止めるのよ!
最後の花道が台無しでしょ!」
「俺だって興奮したんだよ!
後で片倉先輩に軽く殴られたよ(笑)。」
さぁ~て送別会で騒ぐぞ!