「どうして僕?ってのは聞かない方がいいのかな?」
片倉先輩はいつもの微笑みを浮かべたまま、優しく小菅に質問した。
同じくチームでは控え目な小菅は珍しく厳しめの口調で、
「ええ、理由は先輩が一番知ってると思いますけど。」
「うん、そうだね。
瑞穂も僕でいいの?」
「…小菅がそう望むなら叶えてやろう…。
三人とも準備をしろ!
私は手加減せんぞ…!」
広いピッチに四人だけ。
毎日練習してる学校のグランドも、もう小菅とチームメイトじゃなくなるのかと思うと、全く違う空間に感じる。
「優矢くん頑張って!」
「何なら、俺と真田がそれぞれゴールマウスに立とうか?
それとも真田には審判をしてもらうか?」
「徹、この四人に私達は誰一人として不必要だわ。
高坂さん、任せたわ。
さぁ、みんな。私達は校外で男女合同のフィジカルトレーニングよ!
柳生さん、相良くんが気になるでしょうが、彼らだけにしてあげて。」
「はい、三好先生!
優矢くん、精一杯やってね!
優矢くんと小菅くんの活躍を祈りながら、私は思いっきり走ってくるから。」
「ありがとう恵里菜。」
審判も笛も、オフサイドもゴールも無い2vs2。
ただボールを奪い合い、ただ個人技を競い合い、ただただ走った。
高坂先輩も片倉先輩も、俺も小菅も無人のゴールマウスに何度もシュートを突き刺した。
「おさらいだ…。
まずはお前の弱点は何だ小菅?」
「フィジカルが弱くて、足が遅いこと。
強いチャージですぐボールを失うことです。」
「正解だ…。
だがそんなものは弱点と言わん!
世界にはメッシやマラドーナ、そして私の様な小柄な名プレーヤーはいくらでもいる(笑)。
大切なのは何だ?」
「体幹の強さです。」
「そうだ、軸さえブレなければそう容易く奪われはせん…。
さぁ、取ってみろ…。」
わざと足を止めた高坂先輩。
いつもの華麗なテクニックでは無く、背中で壁を作り、身体を張り小菅のプレスからボールを守り続ける高坂先輩。本当に150センチの女の子だなんて信じられない。
「これ以上相手が力任せに来るなら倒れてファウルをもらえばいい。
お前が鈍重な筋肉質になる必要はない…。」
「ボールの奪い方はパワーばかりじゃありませんよ!」
力勝負でさえ高坂先輩からボールを奪えない小菅にイラつき、二人がかりでチャージに行く。
「悪くない選択だね。でも、それだと僕がフリーになるよ。」
続