『誘惑者の日記』を我流に訳す 14 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
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第14話 コイバナ

ヴァール家の二人の女性と、二人の男性の客人は会話に花を咲かせていた。
そう、その花は明らかに生命を帯びていた。

ヴァール家の使用人達は準備に忙しかった。
そう、婚約の準備である。

コーデリアはその準備を悲壮な顔で見つめている。

コーデリアは恐れていた。
エドワードから愛の告白を受けはしないかと。

コーデリアは観察していた。
僕と叔母が婚約するのではないかと。

なるほど、そんな結婚が成立すれば子孫に農業知識を普及させるのに役立つだろう。
僕はコーデリアの叔父になる。
僕とコーデリアの叔母は「思想の自由の友」なのであるから、僕が叔母の気持ちを直視する勇気を持てないような馬鹿げた思想なんて一つも持ち合わせてないのだ。(※訳者特別訳 叔母とは哲学友達として、叔母の気持ちに気付いていないフリをするような哲学を僕は持ち合わせていない。)

エドワードは愛の告白をして全ての決着を着けるつもりだ。
実際に、彼は成功の確信を持っているのだろう。
だが、彼が告白に失敗して苦しまない為にも僕が先んじてやろうではないか!

今こそエドワードを閉め出す時が来た。


コーデリアはもう以前のように気楽に僕と会話出来なくなっている。
彼女は僕に対して少し不安を憶えているのだ。
確かに僕とコーデリアの関係を出会った頃の様に戻すことは出来るかもしれない。
だが、僕はそれは望まないのだ。
まだまだ偵察である。
婚約はそれからだ。
僕にとって、コーデリアと婚約することそのものは困難ではないのだ。


今日、僕は意図的に流した僕の風評を、僕自身で収穫した。
それはつまり、

「ヨハンネス(作中のキルケゴールの名)はある女性に恋している」

との内容だ。
噂はエドワードからコーデリアの耳に入っている。
彼女の好奇の目で僕を眺めるが、敢えて問いただそうとしない。
コーデリアにはまさかと、信じられない気持ちと、自分の為に恋愛事情の先例を見たいとの気持ちが交錯しているのである。
僕の様な冷淡な男でも恋をするのなら、彼女は自分の恋に胸を張れるのである。

僕はコーデリアの態度を知っていながらいつもの如く『叔母に』話かけた。

「これは友人の好意なのか、敵の悪意か、ただの偶然か?
それにしても、こんな噂をふりまくなんて、あんまりじゃありませんか?」

叔母は噂の女がどんな婦人かしきりに知りたがっていた。
だが僕は全部はぐらしかした。