第13話 決断
エドワードの恋愛感情は高潮しているが、僕とコーデリアの関係も劇的に合流しはじめている。
僕がコーデリアの獲得に動く時期が迫っている。
しかし、辛抱こそ貴重な徳である。
思えば僕はかつてある貴婦人に馬鹿げた試みをしたことがある。
その貴婦人は甚だ高貴な家柄の人物だった。
僕は何とか接触したくて彼女の身辺を追いかけたものだ。
ある日の午後、彼女が町を一人で歩いているのを見かけた僕は、彼女を後ろから抜き去り、彼女の行く路を塞いだことがある。
彼女は僕を見て歩調を落としたが、僕はその時悲しげな視線を投げかけ、帽子を取り、感情の高ぶった声で僕は言った。目には涙さえ浮かべていたと思う。
「ごめんください、お嬢さま。貴女の御様子が私が心から愛してる女性にあまりにも似ていらっしゃるので…。
ですが、その人は遠く離れた所に暮らしているのです。
あぁ、どうか私の奇怪な振る舞いをご容赦くださいますように…。」と。
彼女は僕が恋の熱病患者と思ったのだ。
若い女性にとって、男性が誰かに恋していることは悪印象ではなく、そのことで女性が優越感のある微笑みを持つことは、男性にとって容易に受け入れられることである。
文字通り、恋愛観に関して優越感を持った少女の微笑みは男にとって『微笑ましい』光景なのだから。
そして彼女は僕に微笑んだ。
その微笑みは言葉に出来ないほど彼女に似つかわしいものだった。
貴族らしい丁重さで彼女は微笑んだのだ。
それから彼女は再び歩きだした。
数日後、また彼女に会って僕は今度は控え目で丁重な挨拶をした。
彼女は僕を見て笑った。
僕のたった一度の奇怪な行動が、彼女の微笑みを永続的に獲得したのだ。
最後に笑う者とは、最も笑う者なのだ。
コーデリアを獲得するには様々な手法があるが、僕は熱狂を好まない。
熱狂は若い娘が備えた詩的な物を獲得する時に、他に選択肢が無い時にだけ用いるのだ。
混乱を招き、丹精に育てた彼女の詩的な精神を一瞬で飲み干すようなことではいけない。
最良かつ、効果的な方法はありきたりの婚約である。
僕が詩的な愛の告白や、結婚の申し込みをしたのなら、彼女自身の高鳴る心臓の鼓動は信じても、僕の熱い言葉を信じないだろう。
(続く)
はい、完全に今で言うストーカー体験をカミングアウトしているキルちゃんです(笑)。
最後の相手の言葉は信じなくても自身の鼓動は信じるに納得です。