『誘惑者の日記』を我流に訳す 12 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
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第12話 書物


女性の頬の赤らめ方には三段階ある。
まずは恋愛小説に出てくる女主人公がこれだ。
ただ単純にレンガ色に染まるだけだ。
次が言うなれば「精神の曙」だ。
最後は「幸福」により頬を赤らめる時である。


※訳者注・小説の女主人公とはキルケゴールが愛した旧約聖書、ギリシャ神話、シェークスピアに登場する女性の可能性が高いです。
衝動的、盲目的に恋の情熱を優先することにより頬を赤らめることは最も初期の段階と言っています。

「精神の曙」とは恐らく、知性や道徳による発見だと思います。
「心」の成長や知的好奇心による喜びにより頬を赤らめることと思います。
そして最終的には「幸福そのもの」です。
これは日常の中の何気ない幸福は、劇的な恋愛や厳格な倫理規範をも超越する、とのメッセージと受け取りました。

キルケゴールが晩年になって唱えた
「美的実存」、「倫理的実存」、「宗教的実存」の三段階に、この時既に触れていたのだと思います。


僕は時々、コーデリアに本を朗読する。
この分野でエドワードは口出し出来ないから僕の思うがままだ。

そして僕はさも平然とコーデリアに言ってのける…。

「エドワード君はとても良い本の趣味をされてるのですね!」

勿論、僕が彼に奨めた本だ。

ただ二つ、想定外のアクシデントがあった。
一つは、博識なコーデリアの叔母も、僕が奨める(表向きはエドワードが彼女に奨めた)
ドイツ語の本には詳しくなく、ドイツ語に堪能ではないのだ。(デンマークの言語はデンマーク語)

そこで僕は手にした本の製本技術について語ることにした。最新の印刷技術から製紙段階、一冊の本が完成するまでを叔母と語ることに切り替えた。

どの「知識」を採用するかが生来的な「知恵」の意味であるのだから。

コーデリアに「精神の曙」はまだ何度でも訪れても問題ないのだ。

もう一つは、この状況下でも、イヤこの状況下だからこそなのか、エドワードのコーデリアに対する恋情は最高潮に達している!
このままでは僕の知らない所でコーデリアに告白するかもしれない。
それは僕にとって冒険過ぎる。
勿論、彼女は首を縦に振らないだろう。
だがそのことでエドワードは酷く悲しむだろう。
悲しむエドワードを見て、コーデリアが一度拒否した態度を撤回するかもしれない。
そのような「純粋な同情」は彼女の「魂の誇り」を傷つけるだけで、決してあってはならないのだ。
(続く)