『誘惑者の日記』を我流に訳す 9 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

第九話 第二段階


市場の物価を彼女が知らないことは女性として不名誉になることではないが、こんなことが人生の大事とされるということは、彼女に怒りを憶えさせるからである。

叔母は僕のアシストを得て会話にリズム良く呼応する。
叔母は僕の会話についていけるが、コーデリアはついていけない。
叔母は僕の会話の引き出しに熱狂する。

叔母が僕に唯一不満があるとするとすれば、僕に定職がないことである。
会話が職の空き口の話になると、僕は繰り返し、

「それは、僕にうってつけの仕事だ!」

と言っておいてまた会話を戻すのである。
市場や農業の会話についてこれなくても、コーデリアはそれが僕の大袈裟な演技であることくらいは見抜き、僕への怒りを増長させる。
…それこそが望むところだ…。


率直に言うとエドワードはひどく退屈な奴なのだ。
間違いなく事態を把握できないのだ。
そのくせ、服装はきちんと清潔にめかしたてている。

これは秘密だが、僕が出来るだけ無頓着な服装をしているのも、彼に対する友情の為だ。

あわれ、エドワードよ!
彼は際限なく僕にまとわりつき、
「僕は貴方に、何と言って感謝したらいいかわからない!」

なとどと言い出した。
僕に感謝したいだって?
そいつはあんまりだ…。

一人の人間が発展していく状況を、正確に把握出来るなんて傲慢な空論は捨てた方が良い。
他者の目からはその相手が今現在において健康かどうかくらいしかわからないのだ。

今のコーデリアは十分に健康だ。
機は熟した。
僕は叔母との会話の途中に彼女にも質問する。
彼女の瞳は輝いた。続

※訳者注・後にデンマークでは、服を着替えず同じ服装ばかりしてる男性を『キルケゴールみたい』という流行語になりました(笑)。
彼の変人ぶりを象徴する話で哲学に精通してなくても、このエピソードを知っている人は多いですが、『親友』エドワードを引き立てる為に意図的に自分を飾らなかったのはあまり知られていないのです。
これはSPA-k流の推測ですが、同じ服を着ることで自分を印象付かせ、より会話に引き込みやすくする効果もあったのでは?
と、私は思います。とかく晩年のキルケゴールはコルサール(海賊の意)という新聞社との対立により、過剰に彼の実像を湾曲されてしまいます。
それが後世まで残っているのが私には何よりも残念です。
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