後半 25分
「任せて!」
相手のセンタリングを打点の高いヘディングで弾き返す恵里菜。
172センチの恵里菜は女子では長身でも、ドイツの男子大学生に比べたら小さいくらいです。
しかし、元・バスケ部員のジャンプ力と落下点の見極めの早さが、ディフェンス陣に安定をもたらしたです。
それまで地上戦も空中戦も、南部先輩頼みだった守備が恵里菜が入ることでグッと引き締まり、南部先輩はフレイアさんのマークに集中出来るようになったです。
悔しいですが私にはあれほどの空中戦は無理です。
百地先輩の交代要員が私でなかったことに不満はありましたが、今の恵里菜の活躍なら納得です…。
本当に左サイドバックが初めてのポジションとは思えないです。
「柳生ちゃんはもしかして一番、敵のフレイアちゃんに似てるかもな。
高さ、早さ、身体の強さ。
経験も実績も全然劣るけど、プレースタイルはそっくりだよ。」
「真田先輩は空中戦のアドバンテージを求めて恵里菜を起用しただけではないのですか?」
「勿論だよ里見ちゃん。
高さや早さが柳生ちゃんの武器じゃない。
柳生ちゃんの一番の武器は…。
決して折れない強いハートさ。」
「…納得です…。」
あぁ、もう。
せっかく優矢くんと一緒にピッチに立てて幸せなのに、優矢くんは右サイドだから遠い!
愛のワンツーリターンを披露出来ないじゃない!
しかもサイドバックって何?この上下運動。
走る量半端ないんですけど!
里見ちゃんも90分フルなんてよくやってるわね。
でも…絶対に私か優矢くんがゴールを決めて高坂先輩と同じことするんだもん!
優矢くんもきっと同じこと考えてるに違いない。
「片倉先輩!」
来た。
小菅くんからのスルーパス。
右に流れた片倉先輩と中盤右の優矢くんでパス交換するから、私が居る左サイドは手薄になるはず。
攻撃参加するなら今よ!
全力ダッシュで小菅くんを追い抜き、左サイド敵陣に切れ込む。
片倉先輩⇒武田主将⇒片倉先輩⇒優矢くんと繋ぎ、右サイドから優矢くんが武田主将にセンタリングを上げる。
でも、ロロさんが武田主将をマークしてるのはわかってる。
だから私が起用されたのよ!
「飛び込め柳生ちゃん!」
武田主将のヘディングはシュートじゃなく、私へのパスだってわかってた!
私のダイビングヘッドは惜しくもポストを直撃!でも…。
「…入ってろ。」
片倉先輩が押し込んだ!