二日目 午後 大学内医務室
「三好先生、瑞穂は?」
医務室から出てきた三好先生をみんなで取り囲む。
沈痛な面持ちで三好先生が口を開く。
「過呼吸を起こして倒れた時は、私もさすがに驚いたけど、身体に異常はないわ…。
ただ…心の傷は相当深いわ…。
漣、ごめんなさい、私が着いていながら貴方の大切な妹を…教師失格だわ…。」
こんなに落ち込んだ三好先生なんて初めて見た。
好きでもない男に抱きつかれ、身体を触られた高坂先輩の恐怖はどれほどのものだっただろう?
俺は一瞬嫌な予感がした。
あの時の高坂先輩の11人抜きがまさか最後の姿に?現実離れし過ぎたフィールドでの華麗なプレイが余計に今とのギャップを突き付ける。
現実になるのが怖くて俺は言葉にしなかった。
「まり姐のせいではありません。
私がもっとあいつらを詳しく調べていれば…。
今、サッカー部の監督に連絡を取っています。
不在だったからと言って許されることではありません。
直接ここに呼びつけて謝罪と関係部員の退部を要求しましたので…。」
全員が言葉を失った。楽しいドイツ合宿が一気に重苦しい空気になった。
「実のお兄さんが居る前で何だが、こんなことで彼女の女の子らしさを思い知るとはな…。
俺達はいつの間にか、彼女をサッカーが上手いだけで神の子みたいに扱って、完全無欠のヒーローみたいに思ってた…。
本当は恋もオシャレもしたい17才の普通の女の子だったんだ!
そして男の怖さを何も知らない乙女だったんだ!」
「バン!」
と壁を殴る真田先輩の言葉には悔しさが詰まってました。
その音を聞いたのか、ガチャとドアが開き、虚ろな表情の高坂先輩が姿を見せた。
「聞こえたぞ、真田。…オシャレなんぞに興味はないが…恋はしたいと思うぞ…。それに悔しいが乙女には間違いない…。」
「何だよ、高坂ちゃん、元気そうじゃん、心配したよ~!」
武田主将は喜びを露にしたけど…。
「すまないみんな…。片倉、居るか?…今はお前としか…話したくない…。」
「僕?僕でいいの?」
「だ、そうだ片倉。お姫様の呪いを解くのはお前の使命のようだな。」
と片倉先輩の肩を叩く真田先輩。
「真田くん…。武田くん、榎田くん。僕は返しきれないほどの恩が君達にある。お役に立てるなら嬉しいよ。」
「片倉、真田家の家訓『善悪で判断する前に、善悪を用いる事柄かどうか判断せよ。』だ。お前は過去を振り返るな!」