二日目午後 空き講義室
「真田先輩、片倉先輩の事を話してくれませんか?
あのパンチただ者じゃありませんよ!」
しびれを切らして小菅が詰めよった。
勿論、俺も同じ気持ちだ。
大学内医務室
「…お前の事を聞きたいんだ…。
私が転校して来る前のお前の事が知りたいんだ…。」
片倉士郎 春から三年生。
174センチ 基本ポジション セカンドトップ
絶対的なストライカー武田輝の陰に隠れ、いつもシュートを外す印象ばかりが残る。
優しい物腰が消極的な印象を更に強め、他校からは「ダミーストライカー」の汚名を貰い、北条学園が上に勝ち上がれない一因となっている。
しかし、その過去は…。
「僕にとってのサッカーは…。罪滅ぼしなんだ…。
室町中出身の片倉士郎と言えば、誰もが避けて通る札付きのワルだった。
習ったボクシングでケンカに明け暮れる毎日…。やがてジムも出入り禁止になった頃、サッカーにやる気を無くした榎田くんに出会ったんだ…。
二人で舎弟を引き連れて散々悪いことやったけど…。
榎田くんが真田くんの勝負と説得に負けてサッカー部に復帰する時に…。」
講義室
「俺は片倉が気がかりだったんだ。
また、榎田を悪い方に引き込むんじゃないかって。
その時、武田の奴が驚くほど普通の口調で…。」
『片倉、お前もサッカーするか?』
「何か突然今までやってきたことがバカらしくなってね、榎田くんの背中を追うようにいつの間にか僕も入部してたんだ(笑)。
だから僕は彼らに借りがある。
やる気だけで高校デビューの初心者がゴールを奪えるほど甘くないけどね。
今回みたいなゴタゴタで僕だけが汚れるならお安いご用さ。」
「お前があんなに強いとは思わなかったぞ…。
でも…暴力では私は男に勝てないんだな…。」
「高坂さん、女性の強さって…上手く言えないけど、もっと違う強さだよ。」
「私が悪いんだ…。
私が相手の気持ちを逆撫でする様に挑発するから…。」
「お願い、自分を責めないで…。
高坂さんは何も悪くないから…。
泣かないで…。」
「ごめんなさい、ごめんなさい、私が、私のせいで…。」
「大丈夫、もう、大丈夫だから…。」
「二回目だな…。お前の胸の温もりを知るのは…。
2月の練習試合では私からお前に飛び込んだが、今はお前から…。
うん、怖くない、怖くないぞ。
片倉なら怖くない。
もっと強く…忘れるくらい抱き締めてくれ…。」