ベルリン合宿 二日目 午後 大学内サッカーコート
俺は再び奇跡を目の当たりにした。
いや、二回も奇跡は起こらない。これは高坂先輩が再び披露してくれている神業だった?
いや、そんな生易しいものじゃない。
NBAのマイケル・ジョーダンを「人間の姿をした神」と表現した人がいたが、俺は今この瞬間、まさにそんな気分だ。
去年の9月、転校してきたばかりの高坂先輩は男子サッカー部に対して、素人女子生徒を率いて勝負を挑み、武田主将率いる男子部員11人を単独で全て突破した。
当時控えだった俺はピッチの外でこの小柄な少女をただ見ていただけだった。
あの日のことは忘れもしない。
あれから何度、
「もし俺がピッチに居たら高坂先輩を止められただろうか?」
「もし俺なら同じことが出来ただろうか?」
と何度も脳内シュミレーションを繰り返した。
足が早いだけの162センチのキレてカードばかりもらってた俺が、多彩なドリブルテクニックと、レギュラーの座、そして恵里菜という彼女を獲得できたのは高坂先輩の背中を追いかけたからですよ。
11人抜きと言いながら、いつでもパスを貰えるように俺も走る。
例えダミーでもフェイントの選択肢に入れることで相手のマークは分散する。
「相良!」
来た!やっぱりパスが俺に来たよ。
単独で11人はドイツの大学生相手にやっぱり無理だ。
ええと…。
「こっちだ!」
俺は何のアイデアもなく、高坂先輩が取りやすいパスを出しただけだった。
せっかくここまで突破してくれたボールを取られたくない気持ちしか俺にはなかった。
「こっちだよ。」
前線で片倉先輩が手を挙げる。
マークが分散した瞬間を高坂先輩は見逃さなかった。
浮かせたボールを再びリフティングし、宙に浮いたボールを地面に着けずに相手を抜く。
高坂瑞穂の究極奥義「メッシ・イリュージョン」だ!
『ダイヤー、ボウヤー!ファウルでもいいから止めろ!』
キーパーが向こうの言葉で何か叫んだ瞬間、飛び出してきたが、嘲笑うかのようなループシュートを放つ。
ふわりとキーパーの頭を越えたボールは力なくコロコロと転がるが、無人のゴールのラインを越えるには十分だった。
「まぁ、こんなもんだな…。」
『お嬢ちゃん、やってくれたな。』
やれやれと言った表情で握手を求める相手選手。
その瞬間、快く手を差しのべた高坂先輩の腕を掴み強引に抱き寄せた!
「何をする…!」