「駄目…だ…。間に合わない…。」
白組の守備陣の誰もが動けなかった。
最終ラインの伊東と南部さんは二人でフォワードの片倉を見ていたため、突然飛び出した柳生ちゃんは完全にフリーだった!
最後の砦、キーパー榎田も、至近距離からのダイビングヘッドは防ぎようがなかった。
値千金の柳生ちゃんのヘディングはゴールネットを大きく揺らしたが…。
旗は上がっていた。
ゴールを告げる長い笛ではなく、オフサイドの短い笛が響く。
「真田先輩!何でですか?私はラインの後ろから飛び込んだのに!」
「そうだよ真田!僕も伊東くんの前には出ていない!」
二人は審判の俺に熱く抗議するが、俺は淡々と真実だけを告げた。
「お前達じゃない。
オーバーラップした宇都宮さんがオフサイドラインを越えていた。
だから柳生ちゃんのシュートはノーゴールだ。
白組ボールでリスタートだ。」
ピッチ内が荒れる。
白組は安堵し、紅組は落胆した後に…。
「真樹!何やってんのよ!せっかくのチャンスをあんたが潰して…。」
茉奈ちゃんが激しく宇都宮さんを責める。
「ご、ごめんなさい…。逆サイドの百地先輩が上がってなかったから、私も攻撃参加しようと…。」
「だからって、関係ない所で恵里菜のゴールを無効にしちゃってあんたどっちの味方!?」
見てるこっちが辛くなりそうなほど宇都宮さんは責任を感じていた。
茉奈ちゃんの言葉に今にも泣き出しそうな表情だった。
「だいたいあんたが攻めたくらいで…。」
と言いかけたのを制止したのは高坂だった。
「やめろ、茉奈…。チームメイト同士の争いや暴言もカードの対象になる…。
それ以上言えば審判の真田は間違いなくお前にイエローカードを出す…。
あいつはそういう奴だ…。
宇都宮、気にするな。
積極的に攻めた結果だ…。
オーバーラップのタイミングとしては間違っていない…。
柳生も良くやった…。
まぁ、榎田と南部に同じ手は通用せんが…。
小菅、柳生、片倉、茉奈。もう小細工は無しだ。
『目の前の相手に挑んで崩せ』
私もそうする。」
相変わらず白組の優勢だったが、最上さんを中心に必死に守っていた。
そして…。
右サイドでボールを持った小菅は相良と対峙する。
小菅得意のノールックパスが出た!
後ろから駆け上がる宇都宮さん。
しかし…。
「今だ!」
待ってましたとばかりに相良の後ろから里見さんも攻め上がり先にボールを奪った!