深夜 町のはずれ
「…ウル…?なんでここに?」
「130年も森で暮らしてたら退屈なのよ。
町の妖精にイイ男いないかな~って、あんたの猫の毛の中に入って帰ったふりしてたのよ。」
「…シュヴァーシュの中に?
わからなかった…。」
「そりゃそうよ、姿視えなくしてたんだから。
それより、帰るなんて言わないでもっと町を楽しみになさいよ!」
「…この町嫌い…。子供を奴隷として働かせる町なんて嫌…。
村に帰る…。」
「町が嫌い?
村に帰る?
チビっ子がわかった風に言わないの!
あの坊やから逃げたいだけじゃない!」
「…ソレント嫌い…。」
「嫌いな男の子なら、あんたがやってたみたいにわざとナイフ落としたり、こき使ってやりゃいいじゃない?
どうせ嫌いなんでしょ?」
「…違う、奴隷のソレントにそんなことしたくない…!
奴隷を認めてるこんな国嫌い…。」
「だからチビっ子が何言ってんの!
あんたはソレントと仲良くしたいのに、どうしたらいいかわからない自分が嫌いなの!
それを国や政治のせいにしないで!」
「…私は…。」
「まっ、いいわ。
男の悩みは男が解決するかもね?
これ、妖精の世界も同じ♪
あんたの『嫌いな』ソレントのことを『大好きな』トーレスに話しなさい!」
「…トーレスは白森に居るのに…?」
「任せな!このシャハルの鏡があれば大丈夫!
ミル?あたし。
トーレスいる?
えっ、ヴェルティと寝室?
急ぎよ!幼女の危機なの!
うるさいわね、あんた西風のゼピュロス様と逢い引きできたの誰のおかげと思ってんの?
はいはい、トーレス?
そうよ、これがニンフの力よ。
お嬢ちゃんに代わるね。
ほら、愛しのトーレスだ、鏡越しに話しな!」
「…トーレス…。」
「おぉ、アルラウネさん…何を憂えている?」
「トーレス…私…。」
「無理もない。
7才のロイセン国出身の少女が、15年前の大津波を知らないのも当然だ。
その津波被害でセイドンの町は文字通り沈み、数々の難民が他の町に流れ行った。
家と職を求める彼らを、悪い奴らは安く働かせ、ルテミスの治安は悪化した…。
そして津波から三年後、国家による厳格な戸籍の管理と、厳格な公認奴隷制度が 成立したんだ…。」
「…国がちゃんと管理してるから、平和になったってこと…?」
「そうだ。そして…奴隷であった自身の身分を買い戻し、今や立派な重歩兵になったのが…カイレフォンなんだ…。」