民は飢えていた。
凶作に対する無策政治と、利己主義な富裕層に対して彼は遂に立ち上がった。
賛同者を集め、武器を集め、富裕層の屋敷を襲撃した。
事実上のクーデターである。
1日で1000人を越える死者を出しながらも、彼への賛同者は増え続け、国の対策は後手に回った。
1ヶ月に及ぶ反乱の末、首謀者の彼は捕らえられ、私が再会出来たのは首だけの彼だった。
「何で…。私は貴方が英雄じゃなくても良かったのに…。」
空腹でも貧しくても、最後のその日に傍に居れたらそれで良かったのに…。
私は天を呪った。
異人と遊女の間に生まれた私が何故生き延びて、そんな私を愛してくれた彼が何故死ななければならないのか?
私の決断に迷いはなかった。
「彼を生き返らせる。」
比喩的な意味ではない。
父から秘密に教わった錬金術と、母の兄からの陰陽術があれば可能だ。
錬金術で言う「人体生成」、陰陽術で言う「反魂の術」だ。
だが「首」だけとなった彼には素材が足りない。
肉体のある反魂の術と無い術では決定的に足りないものがあった。
そう、人を一人造り出すには「1000人の生き血」が必要だったのだ。
私に迷いはなかった。
彼の居ない世界なんてどうでもいい。
誰がどれだけ死んでも構わない。
私は異界から妖の群れを呼び出した。
「百鬼夜行!」
魑魅魍魎達はあっという間に町を地獄絵図と変え、すぐに999人の生き血が集まった。
最後の一人の標的の少年を見つけたが、それが彼の隠し子だと分かった時…。
私は突然全てがどうでも良くなった。
情けなさと腹立たしさが混じり、どうしてもその少年の命を奪えなかった。
「どうせなら…。」
と999人分の生き血だけで彼を蘇らせ、不完全な常態で生き地獄を味わうがいい!
それが私の復讐のつもりだった。
血を集め、首を据え、経を唱える。
全ては計画通りだったが、その時突然の大地震により、私は裂けた大地の底に落ちた。
「天はやはり私を許さないのか?」
目を醒ますと、私の傍には彼が居た。
焦土と化したはずの町は元通りだった。
「…時間が戻った…?」
天の恵みか?と感謝する余裕は私になかった。
何と、彼の蜂起前日に戻ってきたのだ。
私には彼を止める時間がなかった。
思案の末、私は夜中に役所に走り、彼の計画を密告した。
歴史は変わった。
1ヶ月の反乱はずが1日で鎮圧された。
彼の名は大塩平八郎。終