No run(実行せず)~短編ファンタジー小説 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

民は飢えていた。
凶作に対する無策政治と、利己主義な富裕層に対して彼は遂に立ち上がった。

賛同者を集め、武器を集め、富裕層の屋敷を襲撃した。
事実上のクーデターである。

1日で1000人を越える死者を出しながらも、彼への賛同者は増え続け、国の対策は後手に回った。

1ヶ月に及ぶ反乱の末、首謀者の彼は捕らえられ、私が再会出来たのは首だけの彼だった。


「何で…。私は貴方が英雄じゃなくても良かったのに…。」

空腹でも貧しくても、最後のその日に傍に居れたらそれで良かったのに…。

私は天を呪った。
異人と遊女の間に生まれた私が何故生き延びて、そんな私を愛してくれた彼が何故死ななければならないのか?

私の決断に迷いはなかった。

「彼を生き返らせる。」

比喩的な意味ではない。
父から秘密に教わった錬金術と、母の兄からの陰陽術があれば可能だ。

錬金術で言う「人体生成」、陰陽術で言う「反魂の術」だ。
だが「首」だけとなった彼には素材が足りない。

肉体のある反魂の術と無い術では決定的に足りないものがあった。

そう、人を一人造り出すには「1000人の生き血」が必要だったのだ。

私に迷いはなかった。
彼の居ない世界なんてどうでもいい。
誰がどれだけ死んでも構わない。

私は異界から妖の群れを呼び出した。

「百鬼夜行!」

魑魅魍魎達はあっという間に町を地獄絵図と変え、すぐに999人の生き血が集まった。
最後の一人の標的の少年を見つけたが、それが彼の隠し子だと分かった時…。

私は突然全てがどうでも良くなった。
情けなさと腹立たしさが混じり、どうしてもその少年の命を奪えなかった。

「どうせなら…。」
と999人分の生き血だけで彼を蘇らせ、不完全な常態で生き地獄を味わうがいい!
それが私の復讐のつもりだった。

血を集め、首を据え、経を唱える。

全ては計画通りだったが、その時突然の大地震により、私は裂けた大地の底に落ちた。

「天はやはり私を許さないのか?」
目を醒ますと、私の傍には彼が居た。
焦土と化したはずの町は元通りだった。
「…時間が戻った…?」

天の恵みか?と感謝する余裕は私になかった。

何と、彼の蜂起前日に戻ってきたのだ。
私には彼を止める時間がなかった。
思案の末、私は夜中に役所に走り、彼の計画を密告した。

歴史は変わった。
1ヶ月の反乱はずが1日で鎮圧された。

彼の名は大塩平八郎。終