恋に終わりを告げられた私は大都会で独りぼっちだった。
街行く人達や彩るイルミネーションさえも私だけを嘲る様に思えて涙が出そうになった時、
私はサンタクロースに出会った。
「シュクフク」~夜間飛行
「カラオケいかがっすか~?」
プラカードを持つ呼び込みのお兄さんがサンタの衣装を着ていたのは季節的に珍しいことではない。
私はただ、傷ついた心に対して祝福が欲しかった。独りが嫌なだけだった。
「…貴方と一緒なら…」
「ハイ、一名様ご案内~。」
今は独りになりたくなかった。
案内された部屋で衣装の上着を脱いだ彼と何気ない世間話をする。
「うわ、そりゃ酷い男だな~。別れ話を相手の女に任すなんて。よく君も怒らなかったな~?」
「あっ、いえ、何か二人の雰囲気を見てたら何も言えなくて…。」
「お人好しも良いけど、言いたいこと言わないと男に遊ばれるばかりだぞ?」
「…わかってます。みず知らずの私に…ありがとうございます。」
「だからそれがお人好しだって!」
「そうですね、気をつけます(笑)。」
彼の荒々しくも優しい言葉に癒され、ホントに彼がサンタに思えた時、
「よう、お前にしては良くやったじゃん。俺達も混ぜろよ。」
店の制服を着た男達は明らかに彼と雰囲気が違った。
「や、触らないで下さい!離して下さい!」
「おい、やめろよ、その子は…。」
「ウチに来たからにはわかってんだろ!」
「やめて下さい!」
「高校生相手に止めろって!」
「バキッ!」
宣伝用のプラカードで思い切り同僚の頭を殴った彼は、強引に私の腕を掴み、
「逃げるぞ!」
と叫んだ。
手首は痛いし、走って苦しいはずなのに、不思議な安心感にどこまでも逃げたかった。
「…私は大丈夫です。でも貴方の方が…。」
「ホントに済まない。元々ウチはソレが目的の客が集まる店なんだ。
足を洗いたいと思ってたんだ。いい機会だよ。」
「人はいつでもやり直せると思います。誰かの支えがある限り…。」
「お嬢ちゃんの言う通りだ。田舎に帰って親に預けてる子供とやり直して見るかなー?」
「えっ、お子様…が…?」
「あぁ、離婚はしたが子供はこっちが引き取ったんだ。」
「そうですか…。」
「ありがとう、次は気をつけな、お嬢ちゃん。」
私が出会ったサンタクロースはプレゼントどころか、私の心を奪った大泥棒だった。
そして私は一日に二度失恋した。