やれやれ、柳生ちゃんにはもう少し、このおいしい状況を味わってほしい気持ちもあるんだけど、傷が浅いうちにね…。
「ねえ聞いて。相良くん、鈴木くん、茉奈ちゃん。
貴方達、本当にそれでいいの?」
「島先輩…。」
「心に何か抱えた物を、いつまでも持ち続けて友達をやってくわけ?
それで恋人になれてホントに喜べる?
あのね、『両想いとはお互いが相手に関係なく、同時に片想いをしてること』
って言葉があるの。
つまり、自分の気持ちと相手の気持ちは決定的に違うの。
だから傍に居て共感することが大切なの。
なのに貴方達はお互いに厚意の押し売りをしてるだけでしょう?」
「島先輩…。わかってました…?」
「特に鈴木くん、私の言葉を聞いても、君がそれでいいなら私はもう何も言わないわ。」
私の指摘に対して、言葉を失った鈴木くんは柳生ちゃんの側を離れて茉奈ちゃんの側に行った。
そして決意を秘めた眼差しを相良くんに向けて言った。
「相良、ごめん。俺、お前を応援するって言いながら、本当は俺だって茉奈ちゃんのことが好き…。」
「最初からわかってたよ、全く無理すんなよ。」
「そ、そうなの?鈴木くん、ありがと…。私は嬉しいけど…。その…」
「ヒドイ!翔子ちゃんの時と同じじゃない!
神は…。」
「今回は大丈夫よ、柳生ちゃん。
ねえ、相良くん?」
恥ずかしそうに振舞いながらも、相良くんは真剣な瞳で誠実に柳生ちゃんを見つめる。
「あ、あの柳生さん。都合がいいことはわかってる。
最初は趣味の合う茉奈ちゃんと仲良くなりたかったのは本当だ。
でも今日、君と過ごして…その…茉奈ちゃんや鈴木に関係なく、君のことを…もっと知りたいなって。
でも…俺達のゴタゴタに巻き込んでごめん。
ただ俺だって気持ちを押し殺すのはイヤだ。」
「相良は悪くない。
俺が一番悪い、ごめん柳生さん。」
「相良くん、鈴木くん。
私、二人からのアプローチ受けて嬉しかったよ!
鈴木くん、茉奈ちゃん、上手く行くといいね。」
「う、うん…。恵里菜、怒ってない?」
「…何を?」
柳生ちゃんのその笑顔が心意を隠していたのかはわからない。
ただ…。
「…相良くんは左サイドハーフがポジションだよね。私も左のウイングだから参考にすること多いと思います。だから私の方こそ相良くんをもっと知りたいです。お願いします。」
そこには火がつかず、等身大の彼を視る柳生ちゃんの姿があった。
続