「結局、二人の仲はどうなんだ?」
練習中だけは京子の邪魔なしに真田との会話を独占できる時間だ。
その貴重な時間なのに、私は自分の事よりも中島と武田の事を話題にした。
「さぁ、どこまで進展してるかは知らないが、お互いに良い感じに意識してるのは確かだな。
武田が落ち着いてくれたら俺も楽になるよ。」
「お前がか?中島と武田が付き合うとお前が楽になるのか?」
良くわからないが真田と武田の仲の良さは知っている。
友達に彼女が出来るということはやはり喜ばしいことなのだろうか?
「イヤ、今まで散々武田のセクハラ行為の事後処理をさせられてたからな(笑)。テニス部と合同合宿しようとか、練習試合で相手校のマネージャーをナンパしたりとか。ウチにマネージャーが居ないのも武田のセクハラで何人か逃げ出したからなぁ(笑)。
中島さんはあんなのが彼氏で大変だろうけど、俺にとっては二人には上手くいってほしいよ。
高坂もその方が嬉しいだろ?」
「確かに中島は私の指導以上に、武田との練習の方が効果的な時があるな。
二人の想いがお互いを向上させたのだろうな。」
サッカーが二人を結びつけ、結びつきが二人のサッカーに好影響を与えている。
それはまるで私が真田に求める理想そのものであった。
「うらやましい」
その気持ちでいっぱいだった。
そして思わず私は聞かなければ良かったことを聞いてしまった。
「それじゃあ、あの二人…、まさか…もうキスとか…?」
真田はごく普通の態度でサラッと言った。
「うん?あの雰囲気ならキスくらい当たり前だろ?」
…聞いてしまった。
「キスくらい当たり前。」
真田に悪気が無いのはわかってる。
だがその言葉は私の心を深く傷つけた。
付き合ってるかまだわからない中島と武田のキスは当たり前。
なのに彼女(の一人)である私が当人とまだキスしていないなんて…。
わかってしまった。イヤ、気付かないようにしていただけかもしれない。
真田にとって「当たり前。」
の対象は私では無く、きっと京子なんだと。
「どうした高坂?早くボール戻せよ?」
「高坂」?そう、未だに私達は苗字で呼び合っている…。
二人は愛し合うことでサッカーが上手くなって行くのに、私は愛されずにただ部員達にサッカーを教えるだけ…。
涙は溢れ、私はその場から逃げ出してしまった。
気にかける真田に無言で平手打ちをしてごめんなさい。
暫く…会いたくない。