「もう大丈夫よ内藤さん。
この子の身体には痛み以上に恐怖を植え付けたから。
復讐する気なんて消え失せるくらいにね。
さっ、自分の言葉でごめんなさい言いなさい。」
三好先生に促され、涙と涎と鼻水を流しながら山名さんが私に言う。
「…ごめんなさい内藤さん。私…貴方がうらやましいかったの…。」
「…いいのよ、貴方の言ったこと間違ってないかもしれないし、私も貴方を文鎮で殴ったしね…。」
そう、この女は私に似ている。だから自分が許せないように憎しみの矛先が私に向いたのだ。
私が彼女と同じ行動をしない保証はないのだ。
私にだってそれくらいはわかる。
暫く続いた沈黙を廊下の奥の方からの叫び声が破った。
「京子ー!無事かー!」
書道部の子がまー君を連れて来てくれた。
「やれやれ、やっと騎士様のご到着ね。
内藤さん、部屋を出て真田くんをUターンさせない。
山名さんは今のうちに逃げなさい。
そんな顔を真田くんに見られたくないでしょ?
書道部のみんなは他言無用よ。わかってるわね?」
足元がふらつきながらも逃げる準備をする山名さん。
「ありがとうございます、先生。私、あの…その…」
「山名さん、『愛は欲しがるモノじゃなく、与えるモノ』よ。それがわからない人は恋をする資格はないわ!さっ、早く行って!」
山名さんはそれ以来サッカー部から姿を消した。
表向きは「サッカーがもっと上手くなりたいから、基礎体力を鍛える為に暫く三好先生に弟子入りする」
とのことだ。
真相を知るものは一部の人間のみだ。
「ありがとうございます、三好先生。昨日京子から全てを聞きました。
何から何まで…。」
翌日の昼休みに生徒会室でまー君と先生と三人で話し合う。
「いいのよ、生徒を守るのは教師の使命よ。
でもね、不良の更生や生徒会選挙の手助けは出来ても、個人の恋愛感情には立ち入れないの。
この意味わかるわよね?」
「はい、勿論…。」
私もまー君も返す言葉もなくうなだれる。
「山名さんは早朝の練習に真面目に参加してくれたわ。
『しっかり鍛えて早くサッカー部に復帰するんだ』ってさ。
皆が変わろうとしているのよ。武田くんも中島さんも高坂さんも小菅くんも。
真田くん、内藤さん、貴方達だけ何も変わらないわけにはいかない、ってことを知っていてくれたら先生はそれ以上何も言わないわ。」
わかってる。私達の問題は瑞穂に関係なく、私達同士が向き合うことだと。