山名さんがサッカーの楽しさと部員の温かさがわかったことは素直に喜ばしいことだわ。
でも本人の本質や性癖までそんなすぐに変わるもの?
こんな私の疑問は悪い方に当たってしまった…。
「京子~。お客さんよ~。」
書道部に私を訪ねて来るなんて誰?
まー君が寂しがったなら嬉しいなぁ…。
「真田くんじゃなくて…残念…ね…。」
「山名さん!何でここに…。」
山名理恵はいつも通りの満面の笑顔で私に語り出した。
「私ね、わかったんです。誰かを好きになるにはまず自分を好きにならないと、って。
小菅くんが好き。でも真田くんも榎田くんもキャプテンも好き。
勿論、中島さんも高坂さんも好き。
大切な人に囲まれて私は幸せなんだなって。
でもその為にはもっと自分磨きをしないとって思ったんです。」
「そ、そう。それはいい考えと思うわ。」
わからない。ホントにそれだけを言う為にここまで?
「でもね、内藤さん。…貴方は…嫌い…。」
その言葉と同時に彼女の白く小さな指が私の喉元に伸びてくる。
「キャー!」
他の書道部員が悲鳴を上げる。
ウソ?私この女に首を絞められてる?
「何で貴方なんかが真田くんに愛されてるわけ?
内藤さんは私と同じニオイがするのに…。
偽善者!欲張り!エゴイスト!
私は誰からも愛されないのに、何で貴方ばかり!
消えて消えて消えて。素敵なサッカー部の人達に内藤さんだけ余計なの。」
…ちょっと逆怨みもここまで行けば立派だわ。
このストーカー女!遂に本性を表したわね!
咄嗟に掴んだ文鎮を握りしめて彼女の側頭部を殴打する。
一瞬、手が首もとから緩んだ隙に脱出する。
「ふざけないで、あんたなんかに命狙われる筋合いないわ!」
「私は過去を清算するの。それにはまず貴方から…。」
「ガラッ」
「そこまでになさい!この色ボケ女。
って私には言われたくないか(笑)。」
勢いよくドアを開けて入ってきたその人は山名理恵の襟首を掴んで、空気投げをお見舞いする。
「ガハッ、クッ…。ゲホッ。」
「暫く呼吸が出来ない投げ方したから生き地獄を味わって反省なさい。
全く、サッカーの楽しさを知った途端に、今までの自己嫌悪と貴方への同族嫌悪、そして部員以外の排他的な愛情が一度に彼女を暴走させたみたいね。」
三好先生が合気柔術で助けてくれた。
「彼女は私が預かるわ。徹を立ち直らせた時より厄介かもしれないけど。
武田君には私から言っとくわ。」