「確かに山名先輩は足も遅いし、パスの精度も低い。
でも問題はそこじゃないんです。
だだっ広いフィールドに目標が無いからどこに走っていいかわからず、どこにパスを出していいかわからないんです。
だから目標を…。」
「小菅の奴、いい顔をするようになりおって。真田、お前のおかげでまた一人成長したようだな。」
「いや、成長したのは三人かもな、高坂。」
「今よ！。」
小菅がフリーキックを蹴るより早く、中島、山名が走りだす。山名は真っ直ぐ中島の立ち位置を目指して走り、中島は山名の位置を目指す。
「ポジションチェンジか、考えたな！」
フィールドに榎田の声が響く。
強く高く蹴られたボールが中島の立っていた位置に届く。
それに必死に追い付こうとする山名。
「目指す位置が決まってるからダッシュに迷いが無い。山名先輩の足でも追い付けるはず。」
「間に合って～。」
ワンバウンドしたボールに大きく振りかぶった右足を合わせる山名。
「シュート？しまった！パスじゃないのかよ！」
榎田の反応が一瞬遅れる！
「空間を狙ってパスを出すのは僕でも難しい。でもゴールを目標にして蹴るのは簡単だ。」
キーパーの榎田はかろうじて右手の指先でボールを弾いたがその先に中島がいた！
「理恵、今のあんた最高よ！そしてあたしもね！！」
迷いなくこぼれ玉に反応してゴールに叩き込む中島。
さっきまでの苦戦がウソのような鮮やかなシュートが決まった。
「やったー！あたし決めたよ～。理恵、小菅くん、凄～い！」
「中島さんカッコイイ！」
「中島さん先輩凄いです！」
三人が歓喜の抱擁をする。
そこにゴールを奪われた榎田がグラブを外して歩みよる。
「負けたぜ。確かに『キーパーやポストに当たったシュートはパスと見なされる。』ルールの裏を上手くついたな、小菅。だが俺がキャッチしたり山名ちゃんのシュートがそのままゴールしてたら無効だったんだぜ？」
「ええ、その時はその時で残り五本のうちに決まったらいいかなと。まさか最初に決まるとは…。」
「お前が味方で良かったよ、小菅。」
「ありがとうございます。榎田先輩。」
「理恵、どう、サッカーって楽しくない？あんたの不健全な遊びより？」
「な…中島さん！べ、別に私はその…。うん、楽しい…かな？もっと上手くなったらもっと楽しいですよね。
…駄目、このサッカー部には素敵な人が多すぎて…。私なんかが居てもいいのかなあ？」