「ちょっとタイム下さい。」
頭を抱えながら小菅くんが私達に駆け寄る。
予想以上に難解なミッションだ。
小菅→山名→中島ってラインでシュートを決めるだけでこんなに難しい。
緩くて山なりのボールは榎田君にキャッチされるし、低く、早いボールは理恵が追いつけない。
ゴールから遠くに安全なパスを出すと今度は榎田君に待ち構えられて、一対一じゃあたしが榎田君からゴールを奪えない。
ゴール前の巨人に為す術もなく10本の内5本失敗した。
「ごめんなさい、私が下手だから…。」
「理恵、謝るなら何かアイデア出して!好きな人の名前言わされるなんて乙女の最大の屈辱よ!」
あ~、あの変態に相談したあたしがバカだった。
確かに罰ゲームのプレッシャーで理恵に「サッカーの楽しさを伝えたい」って狙いはわかるわ。
それにミッションに失敗したら「好きな人の名前を言わされる」。
これによって小菅くんは瑞穂、理恵は小菅くんへの想いを言わされるから、理恵は公の前で失恋する。
陰での裏切りがあってこそ「カップル崩し」が成立するわけで、事前に想いが知れたら理恵はただの笑いものだ。
全く、上手く考えたものね。
でもだからと言ってなんであたしまで!
あたしの気持ちをわかっててこんなミッション出すなんて許せない。
あたしの気持ちわかってなかったらもっと許さないんだから!
「瑞穂~。あんたならこんな時どうするの~?」
「そうですよ高坂先輩、何かアドバイスお願いします。」
万策尽きたかのように小菅くんは「師匠」に泣きついた。
「情けないぞ小菅。この程度のこと私が指示するまでもない。
ただひとつ言うならサッカーは11人でやるものだ。お前一人上手くても絶体に勝てないと言うことだ。
それに『不可能を可能にしたい』なら真田に聞け。
小菅、お前の想い人に私は興味が無いわけではないぞ(笑)。言わなければ下着姿でグランド10周だぞ、なぁ真田?」
「そんな…高坂先輩…」
「…私脱ぐ方がいいかも~。あぁ、好きな人に心を折られる小菅くん…いい。」
理恵が信じられないセリフを小声で言った気がするが聞こえてないふりをしよう。
「小菅、中島さん、山名さん。真田家の家訓『敵の動作は目に有り、同士の想いは腹に有り』だ。」
瑞穂に促され真田くんがアドバイスしたが…
「ちょっと、どういう意味?わかるように言ってよ!」
とあたしも理恵も真田くんに抗議したが、小菅くんは何かひらめいたようだ。