「行ってらっしゃいませ。ご主人様。あ~やっぱりこの台詞を言わないとボクの一日は始まらないよ~」
再びありすとの生活が始まった。違うのは
「恋人としての同棲だ。」
僕達の葛藤と関係なく一日は始まり、電車は動き、会社は機能する。全てが当たり前だ。
「おはよー桂木くん。いつもこの電車なの?ねぇ聞いてよ、私、彼と別れてさー…」
同じ課の下薗さん。
明るく元気な社内の人気者だ。
僕がありすに出会わなければ、きっとこんな普通の女の子と付き合って、結婚して、子育てしてたのかなって思う。
でも僕はありすを選んだ。どんな未来よりも僕はありすとの輝かしい日常を選んだことを後悔していない。
昼休み、社員食堂でありすの愛妻弁当を食べてとると、見慣れない男が、
「隣いいですか?」
と言ってきた。
転勤組か?中途採用かな?絵に描いた様な長身インテリメガネだった。
「どこの課ですか?」
男は静かに…。
「アリストテレス計画」
と言った。僕の反応を見て男が不敵な笑みを浮かべる。
「ミシェル久我山。まさか本当に引退されて勤め人をされてるとは驚きです。勿体無い、私は貴方の頭脳を高く評価している。」
ウソだろ?僕の会社にまで組織の連中が来るなんて!しかも完全に人違いしている。
確かに僕とミシェルはそっくりだけど。
「君には関係ない。帰ってくれ。」
冷静に、取りあえず焦ってることを悟られないように…。
「私は貴方の味方ですよ。私も組織に不満を持つ一人でね。私は貴方と『ネオ・アリストテレス』を立ち上げたい」
「どうぞお一人様で。」
席を立とうとした時、
「貴方はご自分を守れるでしょう。ですが大切な人はどうですかな?」
それだけ言って消えていった。
まさか…!?
「ありす?ありすか?」
急いで携帯に電話する。
どうか無事であってくれ!
「もしもし、ケイさん?お昼休みにまでコールしてくれるなんて新婚さんみたいですよ~。嬉しいですぅ。」
「ガチャ。ツーツー。」
良かった。やっぱりただのハッタリだ。
ありすに何かしてみろ!ただじゃ済まないぞって思ったけど…。実際に何が出来る?
まあいい、何もないならそれでいい。
安心して職場に戻ると課長を中心に皆が深刻な顔をしていた。
「おお、桂木くん、実は下薗さんがお昼に出たきり戻らないんだ。行き先を知らないかい?」
まさか?奴らは朝の僕とのやり取りを勘違いして…?
例の男が来た。
「港の第二倉庫19:0」