強引でないから彼を好きになった。
秘密を聞き出すことも、無理矢理モノにしようともしなかった。
「俺についてこい」や
「守ってやる」
なんて無責任な男らしさの押し売りをしなかった。
だからボクはボクのままで自分の中の「女」を存分に開放できた。
けど…今は強引にタクシーに乗り込んであの人に会いに行こうとしている。
彼は自分の枠を越えてボクを求めてくれた。
それが嬉しかった。
タクシーの座席に彼が居る。
今、確かにボクの隣に居る!
「非道いなぁ、永遠の別れかと思ったじゃない。」
「連れて行って、って言っても断るだろう?こうするしかなかったよ。」
「わかってる。でも、このタクシーで二人このまま遠くへ逃げてもいいんだよ?」
「僕自身あいつに用がある。ケジメはつけないと…。」
車は都内の高級マンションに停車した。
ありすに案内されるまま、最上階の玄関に着いた。
そして意外にも僕を歓迎してくれた。
「もっと僻地に豪邸を建ててるかと思ったよ。」
「オレは無駄は省く主義でね。研究所にここから出勤してるのはキミと同じ身分さ。
それで?何しに来た?『ありすを下さい。』って挨拶か?まさかキミの性格からして手切れ金を請求はしまい。」
暫くの沈黙が続き、ケイさんはあの人の胸ぐらを掴み、力いっぱい右手を振り抜いた!
「バシッ!」
強烈な右フックにあの人は膝をつき、口の中から血を流した。
「いちいち、君は手が込んでいる。僕に用があるなら君が直接話せ!ありすに惚れてるなら逃げずにぶつかれ!
それだけを言いたかったんだ。
今のは人の人生に踏み込んだ仕返しだ!」
「わかった風な口を聞くな!キミにオレとありすの十年がわかるか!」
あの人は立ち上がり、ケイさんを殴り返そうとしたが、足はふらつき、簡単にかわされ、逆にまた殴られた。
「十年考えた結果がこれか!大した天才科学者様だな!」
「恋の熱病だけで、ありすを守れると思うな!」
「思ってないさ。でも添い遂げることは出来る!僕はありすと同じ道を一緒に歩く!!」
僕のパンチが当たる寸前、ありすが飛び出した。
「やめて!もうやめて、ミシェルは大切な兄弟みたいなものなの!
ごめんなさいケイさん。ボク達が悪かったの。何の非も無い貴方の気持ちを傷つけた…。
お願い、ケイさんに謝って!」
ミシェル久我山。どやらやっと、やつの本名にたどり着いたらしい。
ありすから傷の手当を受けながら奴が語りだした。