流れる涙と震える身体が、このキスが永遠に続かなかったことと、「愛してる」のキスでないことを知らせた。
そう、このキスは
「今までありがとうのキス」
だった。
「もう…帰らないと…。」
ボクは脱ぎ捨てたショーツを拾いながら、精一杯、甘美な世界から抜け出そうとした。
ケイさんの顔を見ないように支度しようとした。決心が鈍らないように。
これは夢。今日までのことは全部夢。明日になればきっと…。
でも…。悪夢じゃない。だって絶対に忘れたくないから…。
ふいに肩に暖かいモノが被さった。
ケイさんが背中ごしに毛布をかけて、毛布ごとボクを抱きしめて言った。
「朝までいいだろ」
ウソ?引き留めてくれてるの?
あの話を聞いてボクと一緒に居たいはずないよね?
こんな重すぎる女(女だもん!)だめだよ。ケイさんにはちゃんと幸せになってほしいか…
「僕にだって『添い遂げる』ことは出来る。過去は消せないけど、未来は保証出来ないけど、今現在を添い遂げて一緒に泣いて笑うことは出来るから。」
「あの人の身代わりなんかじゃない貴方を好きになってしまったの。でも…駄目だよボクなかんか…。お嫁さんになれないよ。ご家族や会社に何て言うの?女の人がその…する様な…そういうこととか出来ないよ!」
質問には答えず、
「一緒に朝を迎えることは出来るだろ…。」
とだけ言った。
わかってしまった。「朝まで」なんだってことが…。
非道い人ですねぇ。一夜限りの女ってやつ?でも少しくらい嫌いなトコがないと諦めれないよね。ねっ?
うん、ボクを背負えるわけがないからそれもアリの選択だよ。
いいよ…今夜だけ。
最高の夜にしてね。
それは信じられないほど安らかな眠りでした。手を繋いで抱きしめられ、頭を撫でられ…。ケイさんの体温を身体中に感じて幸せの絶頂でした。
「紳士的過ぎて」ちょっと不満もあったけど、決心が鈍らなくて丁度いい。
最後の朝食を終えて「じゃあね」
でドアを閉める。
ケイさんはどこまでもクールだった。
わかってた。最初から無理だって…。わかってた。最後はこうなるって。
こらえても涙は溢れ、太陽さえも容赦なくボクを責める。
下を向きながらタクシーを止めた。帰らないと。
「○○町××通りまで。」
これで…この町ともお別…
「へぇ~そんな所に住んでたんだ。けっこう近いね。」
私の隣には何喰わぬ顔でケイさんが座ってた!!
「あいつに会いにいくぞ。」