そこには僕が見たがっていたモノと、僕が見慣れたモノの二つがあった。確かに二つがあるのだ。
「驚いたよね?これが私の…。ううん、ボクの正体。
アンドロギュロス(半陰陽)って言ってね、両性具有者は五万人に一人で産まれる先天的な『病気』ってされてる。
思春期になるとホルモンバランスの乱れから男か女かを選ぶ手術を受けるんだけど、ボクみたいに完全な中間で産まれて、今なお両方を持ち合わせているのは世界にボクだけだ。
ボクはね…物心着く前にお金に困った両親に売られたんだ。
研究所にとって、遺伝学、生物学の立場からボクは無限の可能性があるんだ…。
わからないでしょう。不自由なく親の愛に恵まれて学校を出た『ケイさん』には。でもボクは居るんだよ。
確かにこんなボクは存在してるんだよ。」
僕は何も言えなかった。何を言ってもありすを傷つけるだけなのはわかっていた。
ただ、僕を「さん」で呼んでくれたことに、演技でないありすに安堵していた。
「あいつも…その研究所と関係あるのか?」
僕はそう聞くので精一杯だった。
「多いに関係あるよ。『アリストテレス計画』って言ってね、狂信的な研究所の連中は『万学の祖アリストテレス』を越える存在になるんだとボクを実験台にした。
『ありす』は研究所が付けたボクのコードネームだ。
何年も『檻の中』でボクは非人道的に扱われてきたけどね、そんなボクを見兼ねて、人間と同じ生活を与えてくれた人がいた。
『テレス久我山』研究所の職員の一人であの人のお父さんだ。そしてボクにとってもお父さんの様な存在だった。」
「あいつが…遺伝子研究の職員の息子ってことか?」
「そう、お父さんとあの人は研究所からボクを連れ出し、離れた山奥で初めてボクを人間として扱ってくれた。
初めてスカートを履かしてくれて、初めてテーブルで食事をした。家族の温もりを与えてくれたんだ。
でも、お父さんは研究所から横取りした研究成果を発表する前に他界した。
だからあの人は必死にお父さんの研究を引き継ぎ、奴らの研究を先に発表することで、一夜にして巨万の富を得たの。
そして正式にボクを『買い戻した』の。
だからあの人にとってお金が力の象徴であり、正義ってのはこういう理由なの」
重すぎる現実に潰されそうだった。だが、せめて
「君の本当の名前は?」
「聞いてどうするの?でも貴方には全てを話したいな。男なら幸二、女なら愛。」
言い終わると僕らは同時にキスをした。