待ち合わせの時間までにはあと少しある。
この二週間弱を振り返るには十分だった。
早朝に押し掛けて来て、一緒に出勤し、会社に着くころには僕はありすに恋をしていた。
この短時間は「一目惚れ」と呼ぶにふさわしいだろう。
その日仕事が終わった夜、渡された番号に電話した。心の中では少し、ありすがウソの携帯番号を渡したことに期待した。
その方がこの突然すぎる出来事を相手のせいにしてしまえるからだ。
しかし彼女は電話にでた。そして家に帰ればそこに確かに居た。
「おかえりなさいなさいませ!ご主人様。丁度今、お好み焼きが焼きが焼き上がりましたわ!」
「何でホントに居るだよ!ドッキリや詐欺じゃなかったのかよ!
いや、しかも何で最初の晩御飯がお好み焼きなんだよ!そこは肉じゃがとかの家庭料理だろ!」
「冷蔵庫の中を整理するのに最適なんです。」
確かに…。この娘がすることは一々無駄がない。
会社の場所を朝に確認したからお好み焼きが焼き上がる時間を逆算できるのだ。
そしてありすが「通いメイド」と知った時は、甘い期待をしていた自分が恥ずかしかった。
「えっ?はい、帰りますが…何か?私、何かやり残したことありましたか?」
「そうじゃなくて。そこは住み込…。イヤ何でもない。また明日。」
居候型ラブコメディは簡単にスタートしなかった。
初めての週末に淡い期待をしたが、土曜日は大掃除、日曜は家具の買い付けに忙殺され、二人で過ごしたもののチャンスはなかった。
そして訪れたチャンスが今日だ。
ありすの方から
「動物園に行きたい」
と言ってきたのだ。
何の意図があるのかわからない。鈴木次郎(仮名)が何の策を巡らしてくるかわからない。
だけど…。僕は今夜に勝負を賭ける!
例えやつに操られてる運命だとしても、僕はありすを求めている。
そうこうしている間にありすが来た。
「申し訳ございません。ご主人様を待たせるなんて。」
「待ってないからいいよ。イヤ、それよりその格好!何で初デートで動物園でメイド服着て来るだ!」
定番中の定番のゴシックロリータのメイド服を来たありすが居た。
「申し訳ございません。私これしかオシャレな服って…。いえ、これしかないなって思ったので。」
「そっか、まあいい。でも今日くらいご主人様はやめてくれ。」
「じゃあ旦那様?」
「違う!桂木ケイだからケイでいいよ。」
「ケイ様…。」
僕らのデートは始まった。