仕事にせよ、ゲームにせよ、物事に熱中してる者が一番よく口にする言葉は
「あと少しだけこうだったらいいのに」と言う小さな不満だそうだ。
それは恋愛における相手へのハマり具合も同様だ。
僕がありすにハマってることを証明する、彼女に対する不満は彼女が
「通いメイド」
であることだ。
そう、ありすは夜になれば帰り、朝になればやって来るのだ。
僕は寂しさと共に夜を過ごし、安堵と共に朝を迎えるのだった。
通いメイドの利点は二つ。
僕に「間違い」を起こさせないこと。
もう一つはあいつー山田太郎(仮名)からの手紙を毎朝ありすが運んで来ると言うことだ。
手紙とは良く考えたものだ。個人情報の漏れや盗聴の心配もない。
まさかこの年で男と文通するとは思わなかったが…。
「同じ顔の同士よ!まさかこんなに長続きするとは思わなかったよ。君を幸せに出来てるようでオレも幸せだ。全ては『詮索するな』と言う忠告を守ってくれたからだ。
では、二つ目の忠告だ。
『本気になるなよ』君はありすを愛せない。 田中一郎」
愛せない?カワイイありすちゃんが本気になってくれないならわかる。あいつー田中一郎(仮名)とありすが「そういう仲」ってオチもわかる。
だが、愛せないってなんだ。人の愛情を他人に推し量れてたまるか!
腹が立ったから昼休みに返事を書いて夜にありすに持たせた。
「君は何者だ?ありすに引き合わせてくれたことには感謝する。だが僕の限界は僕が決める。」
結果がどうあれ僕は操られない主体的な恋愛がしたかった。
「ありすを詮索するなと言ったが、それはオレのことも一緒だ。何度でも言う。
君にありすは重すぎる。背負えるわけがない。
ありすはただのメイドだ。それが君の幸せだ。鈴木次郎」
今度ばかりは我慢の限界だ。
ありったけの罵詈雑言を書いてやってありすに渡そうとした。
が…その時、異変はありすの方に起きた。
「おやすみなさいませ。ご主人様それではまた明日。」
「あぁ、また明日。おやすみなさい。」
いつも通り帰っていくありすを見送る僕。
だったが…。
「…そう…。今夜も…。引き留めては…くれないんですね…。もういいです!おやすみなさい。」
呆気にとられ走って帰る彼女を追いかけもしないバカ一名。
暫くして僕の携帯が鳴った。ありすからかかってきたのは初だ。
「ご主人様ぁ、明日の土曜日ぃ、ありすはデートがしたいですぅ。」
運命の歯車は確実に狂いだした。