「行きたくないよー」。

  そう言ったのは、シェパードの陸だ。人間の出征と共に動物も出征させられていた。犬は、鼻の良さと耳の良さから捜査と敵の警戒、それから伝令だが、こちらは鳩もそうだった。だが、今まで出征させられた犬は未だ帰ってきていない。ツバメの親子が日本に来た際に話していたが満州での戦闘が厳しいらしく犬を食べていると聞いた。陸が飼い主と散歩している時にたまたますれ違った際に一緒にツバメの親子の会話を聞いてしまった。

  「うん。」僕はそう言うしかなかった。大好きなご主人に会えなくなり、生きて帰れるかも分からない。僕も野良時代からの遊び相手がいなくなるのは寂しい。しかも人間の戦争なんかで死んじゃうかもしれないなんて

 

  陸の出征の日。僕は、人の目につかないように陸の様子を見ていた。陸は、あの日の耳を垂らして身体全体でだらんとしていたがピーンと耳を立てシャキーンとして堂々としている。忠犬として「お国のために尽くしてくる!」と言っているかのようだった。人もそうだが犬も出征の日はお祭り騒ぎだった。

でも、僕には分かった。陸の目の奥では、「行きたくない。」「死にたくない。」と言っていた。僕なんかじゃ止められない。ただ見ていることしかできなかった。陸が戦地へ向かう最後に目で訴えられた。「ノラは、生きてみっちゃん達に愛されるんだよ」と。

 

  その夜。いつもの様に人目につかないよう夜遅くにみっちゃん家に行くとみっちゃんがいつもより長く強く僕を抱きしめた。家族で陸の出征を見送っていたみっちゃんは陸のように僕を失うかもしれないと思い寂しくなったのだろう。僕も友達を1人失って寂しかった。みっちゃんと一緒に涙を流した。