ハルカは存在だけで僕に過去を回想させてくれた。


様々な思い出。

良い事。

悪い事。


思い出さなければならなかった事。

思い出したく無かった事。


傷ついた思い出。

傷つけた思い出。


僕は女性を扱う仕事をしている。

多くの様々な女性に囲まれている環境で生きている自分。

一人の二十歳の風俗嬢がなぜこれ程までに僕の心に突き刺さってくるのだろう。

平素は常に冷静さを保っていた自分。

不思議に感じた。


しかし止められない。


18年振りに自らが感じた「この子が好きだ」という気持ち。

36年間の人生で三度目の一目ぼれ。


胸を掻き毟りたくなる様な思い。

恋焦がれて頭がおかしくなりそうな自分がいた。


叶うはずの無い恋。

そんな恋に引き込まれてゆく自分が恐かった・・・。



出逢ってから間も無い日曜日。

疲れ果てた一週間が終わり迎えた日曜日。

ハルカに逢いたいという禁断症状が表れる。

電話を手に取りもがき苦しむ。


「僕はこの道を進むべきなのか・・・」


自分に言い訳をみつけて電話をしてしまう。

「ハルカさん大丈夫ですか?」

店では常連と認知されているのか、「いつもありがとうございます。すぐに行けます。」と言われる。

僕の心の中では喜びと不安が交差していた。


インターフォンが鳴る。

胸が高鳴る。

ドアを開けると笑顔のハルカがいた。

力が抜ける。


僕はもうこの恋と心中してもいい。

「なるようになれ・・・」

そう思った。


前回よりも少し元気そうなハルカ。

「少し元気になったみたいだね。」と声をかけた。

屈託の無い笑顔でハルカが答える。

「日曜日に○○さん(店に対する僕の偽名)から予約が入るかも知れませんってお店に言ってたんです。」

抱きしめたい程嬉しかった。


金が繋ぐ時間が始まる。

サービスよりもハルカとの会話を望んだ。

僕はハルカの事をもっと知りたかった。


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僕は異国に住む小さな彼女の部屋に転がり込んでいた。


現地の人間しか住んでいない場所。

日本人が珍しいのか、朝や昼間に僕の事を覗きにくる人々。

地元の人間しかいないバーでビールを昼から飲む生活。

夜はサクラバーに行ったり、行かなかったり。

適当に過ごしていた。


彼女の帰り時間は様々。


彼女は数ヶ月前にタイの本土からサムイ島にやってきた。

貧しい地域らしい。

家族が多く、彼女の住んでいた場所では出稼ぎに行くと言う事は当たり前の事。

「家族の為に頑張って仕送りをしなければならない。」小さな彼女はその様な事を言っていた。


どこかで聞いた事があった。

タイの貧しい地域の常識。


女性ならば水商売、男であればムエタイやボクシング等の格闘技で稼ぎを作る。

弱い男はニューハーフにしたり、家によっては足や腕を切り落として乞食にしたりする事もある。


力を売る。情を売る。

色を売る。身体を売る。

男であっても、女であっても。

そんな生き方の根底がタイの裏側にはまだ多く存在している。


彼女も例外では無かった。

疲れ果てた顔で、朝方に帰って来る彼女。

「○○人は乱暴で嫌いだ!」

「○○人は優しい。」

「○○人は大きくて嫌いだ!」

彼女も当たり前の事として身体を売って生きていた。

彼女の生きている世界の常識。


僕とその小さな彼女との間には身体の関係が一切無かった。

それが僕と彼女を結びつけていたのかも知れない。

彼女は僕の差し出すお金には絶対に手を出さない。

それどころか、外食費も僕には出させない。

何が境目であったのかは解らない。


彼女の住んでいる場所にはヒモの様な人間も当たり前の様に多くいた。

そんなヒモ達と一緒にバーで昼から飲んでいた僕。

「あんな人達と一緒に飲んでたらダメ!」と身振り手振りで必死に説明する彼女。


サクラバーに顔を出すと、暇な時は嬉しそうに寄ってくる。

彼女目当ての客がいる時は「家で待ってて!」と言われる。

そして疲れ果てた朝帰りの時には子供の様な顔で僕に寄り添って眠る彼女。


売春という行為に偏見を持っていた僕であるが、それが生き方の基本である生活を目にして考えが変わる。

僕の想像できなかった世界がこの世には沢山ある。

僕の常識や日本の常識だけが当たり前では無いという現実。


それが「良い」とか「悪い」では無く、それが当たり前の世界も存在するという現実。

可哀相とは思わなかった。

そんな事を感じたら失礼だと思った。

「頑張れ!」

そう思える自分がいた。

生きるという事は、僕の今までの想像よりも大変な事なんだ。

そんな事を感じた。



頑なに僕からのお金を受け取らない彼女。

僕はこれ以上彼女の負担になってはいけないと決断する。

僕も頑張って生きなければならないと決断する。


「日本に帰る。」

ある日彼女に伝えた。

そんな日が何時かは来る事を覚悟していた様な眼をする彼女。


「日本って良い所?」と彼女に聞かれた。

「ここの方がずっと良い場所だよ!」と彼女に伝えた。

「じゃあ、ずっとここに居ればいいじゃない!」と言われる。

「でも何時かは家に帰らなければいけない・・・」そう伝えた。

「そうだね。日本にはお父さんとかお母さんとかが居るんだもんね・・・」

「リョウを家族に返してあげないとね・・・」悲しそうに彼女が言った。


僕にとっては家の問題では無かったけれど、家族思いの彼女はその様に理解した様子であった。

僕は何も否定をしなかった。


子供の様な顔をした彼女が教えてくれた。

「私にとって外国ってポストカードの向こうの世界。」

「映画の向こうの世界。」

「雑誌の向こうの世界。」

「テレビの向こうの世界。」

「スゴイね!リョウはそんな向こうの世界からやって来た。」

「私がきっと一生行く事の無い向こうの世界・・・」


そう。

僕達は当たり前の様に海外へと出かける。

でも、そんな事を想像もできない世界で生きる人達の方が圧倒的に多いのがこの世の中。

僕達はたまたま日本という裕福な国に生まれ、強い円を持ち、世界の非常識の中で生きているのかも知れない。


彼女がサクラバーで働く夜。

僕が彼女に手渡そうとしてもきっと受け取らない謝礼と共に手紙を残しラマイを去った。


Thank you! You taught me a lot! Will never forget Ramai. Will never foget you. Thank you. Sincerely Ryo.

「ありがとう。君は色々と教えてくれた。ラマイを忘れない。君を忘れない。ありがとう。心を込めて。リョウ」


ありがとう。

君は僕が非常識な世界で生きている事を教えてくれた。

名も忘れてしまった彼女が幸せに暮らしている事を心から願う。



タイからの帰りの飛行機の中。

僕の隣には下品なオヤジが座っていた。

オヤジは僕の横で酒を飲み、赤ら顔になってゆく。

4~5名の団体であろうか。


様々な事を思い返しながら窓の外を見ていた僕に横のオヤジが大声で言った。

「なぁ、兄ちゃん!兄ちゃんもタイでいい思いしてきたか?」


僕は血の気が引いた。


「なぁ!どんないい思いしてきたんだ?」

言葉が出なかった。

「兄ちゃん!なにカッコつけてるんだよ!」と言われた言葉の終わる前・・・。


気付くと僕はオヤジの胸倉を掴んでいた。


「てめぇ、殺すぞ」

僕は冷たく静かに凄んだ。


慌てたスチュワーデスが飛んで間に入る。

僕は言った。

「俺の視界からこの下品なオヤジを消してくれ。」

狼狽していた下品なオヤジは何処かへと消えてくれた。

 

「これが僕の生まれた国なんだ。」

「これが僕の生まれた国の現実なんだ。」

そう思うと悔しかった。


僕達の生きている場所だけがこの世では無い。


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泥酔してバイクで派手に転んだ僕を見下ろす小さな女の子。

その目が突き刺さるように痛かった。

僕は目をそらし笑いながらその場を去ろうとした。

「Bye Bye!」

そう言ってバイクを立て直し去ろうとした僕の袖を彼女は離さなかった。


「No! No!」

と彼女に言われる。


「I have to go home. I wan't to sleep.」

眠いんだと彼女に訴えた。


「Wait here!」

待てと言われる。


彼女はサクラバーに走り戻った。

店の人間と何かを話している。

泥酔中の僕はただ立ち尽くしていた。


サクラバーのスタッフと何かしらの話しが終わった彼女は真剣な眼差しで僕に近づいてきた。

「I ride! You back!」

どうやら送ってくれる気らしい・・・。

小さな彼女。

「Your too small to ride...」

君は小さすぎないかと僕が聞くがお構いなしだ。

彼女が勢い良くバイクのエンジンをかける。

「Back!」

彼女に急かされて後ろに乗った。

周りの視線が何となく恥ずかしかった。

「Where?」

何所までかと聞かれた僕は泊まっていたホテルの名前を告げた。

「Ok!」

バイクは勢い良く道路に飛び出した。


僕よりもバイクの運転は彼女の方が上手かった様な記憶がある・・・。

僕は心地良い夜の風を彼女の運転するバイクの後ろで頬に浴びていた。


僕の宿泊していた隣街、チャウエンのホテルに到着する。

彼女の肩を借りながらホテルの部屋へと戻る。

ベッドに倒れこんだ僕は直ぐに意識を失った。



いつもの痛みを頭に抱え目を覚ました僕。

いつもの二日酔い。

ふと甦る昨夜の記憶。

上半身を起こした僕の足元で彼女は眠っていた。

「やべっ!」

自分を見る。

服は着ている。

彼女も服を着ている。

今思えば失礼な事だが、僕はポケットの中にある財布の中身を確かめた。

大丈夫だった。


僕の部屋はプールサイド。


彼女を起こさぬ様に静かにベッドから出た僕は水着を穿きプールに飛び込んだ。

朝風呂ならぬ朝プール。

僕の日課の一つだった。


何時の間にか目を覚ました彼女。

笑顔でプールサイドにいた。


プールから出た僕は「ごはん」のジェスチャーをする。

笑顔で頷く彼女。


朝食を済ませて部屋に戻る。

彼女も後ろを付いて来た。

僕はポケットからお金を出し、彼女に差し出した。

「Thank you!」

と彼女に伝える。

「No! No!」

と頑なに受け取らない・・・。


悲しい笑顔。

僕は彼女に対してとても失礼な事をしたのかも知れない。

自分を恥じた。


昼前に彼女は帰っていった。


その夜、僕は素面でサクラバーに顔を出す。

小さな彼女が元気な姿で働いていた。

周りの気遣いなのか、何となく僕達には人が近づいて来ない。


僕は泥酔前に帰ろうとした。


彼女の片言の英語とジェスチャー。

どうやら明日の夜、僕に付き合って貰いたい場所が有るらしい。

「Ok!」

と僕は答えた。


翌日の夕方、約束の時間に僕はサクラバーへ顔を出した。

お店が開店する少し前。

彼女は元気に開店準備中。


一仕事終えた彼女が僕を手招きする。

サクラバーを後にして歩き出す。

僕はバイクを残し彼女の後を付いていった。


ナトンという街に行きたいらしい。

サクラバーのあるラマイから見てちょうど島の反対側の街。

理由は解らなかったが彼女に従った。


トラックの荷台の様なバスに揺られ僕達はナトンへと向かった。

回りとは明らかに違う格好をした僕を同乗者達が不思議そうな目で見ていた。

彼女は同乗者達と何かを話していた。

僕には全く何も理解ができなかった。


「まぁ、いいや・・・」


彼女に対するお礼。

彼女に対するお詫び。

僕はそんな気持ちだった。


トラックバスの着いた先は海辺に有る横長の建物。

一目で病院だと解った。


二人のバス代は彼女が支払っていた。


「病院?何だろう・・・」

僕は疑問に感じた。

「Hospital?」

僕は聞いた。

「Yes, My friend here!」

どうやら友達がいるらしい。


だだっ広い大部屋。

ベッド数は10や20じゃ無い。

何の設備も無い。

様々な病人。

同じ部屋。


彼女の友達がいた。

包帯だらけの友達。

男なのか、女なのかも解らなかった。

彼女が喋りかけるが、言葉は返ってこない。

悲しい目をした彼女が僕に言う。


「Bike! Crush!」


ベッドにいたのはバイク事故でケガをした彼女の友達だった。

悲しい目で僕を見る彼女。

僕は言葉が出なかった。



片言同士の会話。

半分も理解できたのか、できなかったのか・・・。

気が付くと、日が暮れていた。

見舞いに来ていた人達は皆ベッド横の床で寝ていた。

「Can you sleep?」

彼女は人が使っていたゴザの様なモノを指差し「Need?」と聞いてきた。

「No, Thank you.」

僕は断った。


どこかに消えた彼女は新聞紙の様なモノを持ってきた。

友達のベッドの横に敷き僕に勧める。

「No, You.」

僕は優しく彼女に勧めた。

「No!」

彼女は断る。


ちょっと寂しげな顔で僕に彼女は聞いた。

「Go home?」

家に帰るかと聞かれた僕。

僕は「No!」と答えた。

「Sorry...」

彼女が謝った。

「No!」

僕は言った。


申し訳無さそうな彼女の顔。

気持ちが痛いほど解った。

こんな所に場違いな僕を連れてきた後悔。

「ホテルに帰ったら柔らかい布団が有るよ!」

そんなジェスチャーを繰り返す。

「No! Here!」

僕は残りたかった。

結局、何も敷かない床の上を二人で寄り添って眠った。


明け方、僕は静かに外に出た。

港から漁に出てゆく小船達。


朝焼けを見ながらの涙が止まらなかった。


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22才の時に僕は自分の感情に封印をした。
もちろん、以降に恋愛が無かった訳では無い。
しかし、自らが人に「好きだ」、「愛している」等と口にしたのは18才の時に恵美子に対して言った言葉が最後となった。


恵美子と別れるきっかけとなった先輩との恋愛も3年間続いたが、僕の「浮気疑惑」で別れる事となった。
もちろん、浮気をした事実は無い。


愛しても幸せにできず、愛されても疑われる。

僕は恋愛に疲れていた。


毎夜の様に一人でクラブへと繰り出し、飲み明かした。

シャンパン、ワイン。

ワイン、シャンパン。

ショットガン。


毎日が面白おかしく孤独な一人の日々。

いつも何かを探していたが、探し物は見つからない日々。


自暴自棄では無かった。

僕の目も、心も、感情も・・・。

氷の様に冷めていた。


そんな日々を過ごしていた頃のクリスマスイブ。

僕は馴染みのレストランバーのカウンターにて一人で過ごしていた。

同じ様に常連である女性の一人がカウンターで過ごしていた。

「お互いに暇だね~!」なんて言いながら笑っていた。


トイレに立った僕の後を音も無く彼女が追いかけてくる。


周りからの死角となっている場所で抱きしめられてキスをされる。

「付き合って欲しい」と言われた。

魂の抜け殻であった僕。

「いいよ」と答えた。


その夜に彼女と結ばれたと僕は思っていた。


彼女には男がいた。


僕は男と別れる決意をする為だけに利用されたのかも知れない。

その店ではアイドル的存在であった彼女の魔除けに使われただけかも知れない。

そんな疑惑つきの出足では有ったものの、素敵な恋愛へと発展する。


6歳年上であった彼女と結婚をしても良いと思っていた日々。

魂の抜け殻であった僕の事を三年間も愛し続けてくれた彼女。

心から感謝をしている。



幸せは続かない。


僕は悪夢にとり憑かれている。


彼女は知らぬうちに新しい男を作り、二人の部屋から静かに出て行った。


悲しみは無かった。


人を愛しても、人に愛されても幸せになれない僕は恋愛拒否症となった。

そして「永遠に続く恋愛など無い。」と信じて疑わなくなった。


29才の時に僕は会社を辞めて海外へと旅に出る。

「鬱」だったのかも知れない。

行先は「微笑みの国、タイ」。

自分が失った微笑みを探す旅。


バンコクではなく、サムイという島を旅先に選んだ。

青い海、青い空に癒しを求めていた。


ここに無いものがサムイには有るかも知れない。

何かを得ることができるかも知れない。

僕は藁をも縋る気持ちだった。

僕の棲むモノクロの世界に色彩を求めていた。


ヤシの木が茂るサムイ島。

僕は過去の一時と同じ様に毎晩飲み歩いた。

前後が分からなくなる程の泥酔。

毎晩繰り返した。


サムイ島にあるラマイという小さな街でバーを見つける。

「Sakura Bar」。

海外で見る「サクラ」という文字に懐かしさを感じた小さなお店。

僕は泥酔しながらもそのバーに立ち寄った。


タイでの日々は幸せだった。

微笑みの国という言葉に嘘は無い。

女性や薬物を買わない僕はタイという国に流される事も無く夢の様な日々を暮らす。

遅い朝食を取りながら飲みだすビール。

ほろ酔いでバイクをぶっ飛ばし全身に風を感じる。

島を何週も何週も回った。


ビーチで日課のオイルマッサージ。

会話にならない会話を楽しんだ。

持参したラジカセで好きな音楽を聴き、美しい景色を写真に収め、タイ料理に舌鼓を打ち・・・。

バーで、クラブで、ビーチパーティーで飲み明かした。


当時は日本人などほとんどいなかった。

イスラエル、ヨーロッパからのヒッピー達の楽園。

ドイツ人と組んでイギリス人との喧嘩。

「日本人ですか?」

おのぼりさんの様な若い日本人に声を掛けられても「はぁ?違うよ!」と答えていた。


孤独ではあったが幸せだった。

毎日この太陽を見つめながら生きる事ができたならばどれ程素敵な事だろうと感じていた。


何度目かに行ったサクラバーの帰りの僕は相変わらずの泥酔だった。

その日はとくに酷く、バイクに上手く乗れない。

サクラバーの目と鼻の先でバイクと共に派手に転んだ僕。

見上げるとサクラバーのスタッフの一人の小さな女の子が恐い顔をして僕を睨んでいた。


名前は憶えていない。


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就職。

社長のコネで入ってきた奴。

僕は配属部署内で少し異質な存在だった。


仕事はそこそこ頑張った。

同じ時期に入社した新入社員達とは生きて来た環境が違いすぎる。

彼らの通っている道は僕が数年前に通って来た道。

しかし社長のコネという裏口入社の僕は謙虚に振舞い周りとの調和を気にした。


入社後間もなく告白される。

1年先輩の女性。

「仕事ができる!」と太鼓判を押されていたしっかり者の先輩。


「付き合って欲しい。」と言われた僕は丁重に断った。

「申し訳ございませんが僕には遠距離恋愛中の彼女がいます。」

恵美子の事を正直に話しした。


僕は恵美子との結婚も視野に入れていた。

事実、恵美子との電話でも「結婚」という話題が何度か出た。

大企業で僕が通用する人間ならば、ちゃんとした生活の基礎を作って迎えに行こう。

僕はそう思っていた。


丁重に断った数日後、先輩から再度告白される。

「彼女がいても良いから付き合って欲しい。」

就職をしてからは何とか真面目に生きていた僕。

浮気もせず、恵美子の事だけを考えていた僕。

しかし昔の顔が覗きだす。

「彼女がいても良いので有れば良いですよ。」

先輩は言った。

「それでも良いから・・・。」


東京に来てから初めての浮気。

何よりも人に好かれる事は気持ちの悪い事ではない。

僕は二股をかけた。


地元では女性間をフラフラしながらも恵美子と毎日の様に逢う事で絆は繋がっていた。

「最高の愛。」

赦しの愛を与えてくれ続けた恵美子にはいつも感謝していた。

しかし遠距離恋愛ではそう上手くはいかない。


先輩が恵美子との別れを懇願しだした。

僕の心も先輩に寄っていってしまった。


恵美子に電話をした。

「君を幸せにする自信が無くなった・・・。ごめん、別れよう・・・。」


電話口から聞こえる恵美子の泣き笑い。

「リョウ君、好きな人でもできちゃったの?」


僕は答えた。

「そんな事は無い。ただ自信を失っただけ・・・。」

嘘。


恵美子は一人で喋っていた。

「そんな事言わないで・・・。二人で頑張ろうよ・・・。」

「私、東京に行こうか?」

「ねぇ、なんで?」

「やっぱり好きな人が出来ちゃったんでしょ?」

「私諦め切れないよ・・・。」

「私の事、責任取ってよ!」


今、思い返すだけで涙が出る電話。


僕は多くを答えなかった。

「ごめん。自信が無いんだ。」


最後の言葉は憶えていない。


僕は頭から布団を被り一晩中声を出して泣いた。

そして翌日に先輩に報告する。

「恵美子とは別れた・・・。」


僕には新たな癒しを与えてくれる先輩がいた。

あの時、恵美子はどんな気持ちだったんだろう・・・。

僕はどれ程恵美子の事を苦しめたのだろう・・・。



恵美子と別れてから三ヶ月程だろうか。

ある夜、恵美子からの電話を受ける。


「リョウ君元気?」

爽やかな恵美子の声。


僕の心は痛かった。


「元気だよ。」

少し冷たく僕は答えた。


「リョウ君、好きな人できた?」

「リョウ君が幸せならいいなと思って電話しちゃった。しつこくてごめんね・・・。」


僕は嘘をつく。


「恋愛をする自信が今の僕には無いんだ。恵美子の方こそ彼氏はできたかい?」


恵美子は笑いながら答えた。

「できるはず無いでしょ。」


僕は答えた。

「恵美子は素晴らしい女性だから、きっと誰かが幸せにしてくれるよ・・・。」


短い沈黙。


恵美子が口を開いた。


「最後に一度だけ電話しようと思ったんだ。しつこくしないから許してね。」

「ねぇ、リョウ君。やっぱり私達は無理なのかなぁ・・・?」

「やり直せないかなぁ?」


僕と先輩は順調だった。


「ごめん・・・。僕達はもう終わっちゃったんだよ・・・。」


恵美子は最後まで僕に優しかった。

「そうだよね。しつこくてごめんね。」

「リョウ君、幸せになってね!」

恵美子は笑っていた。

恵美子からの最後の電話。

後日、恵美子の友達から電話を貰う。

「リョウ君、恵美子から電話無かったの?」

僕は答えた。

「有ったよ。」

恵美子の友達が続ける。

「恵美子は何て言ってたの!?」

僕は正直に答えた。

「やり直したいって・・・。」

友達の声は冷たい。

「それで、リョウ君は何て言ったの!?」

僕は答えた。

「もう、終わった事なんだって言ったよ・・・。」


恵美子の友達に冷たく言い放たれる。

「あんた、恵美子がどんな気持ちで電話したのか解ってるの!?」

「恵美子はお見合いして結婚したよ!」

「結婚する前にもう一度リョウ君に賭けてみるって言ってたんだよ!」

「リョウ君は最低の男だよ!どうせ新しい女でもできたんでしょ!」

「恵美子以上にリョウ君の事を思ってくれる人間になんか絶対に出逢えないから!」

「バカ野郎!」


僕は言葉が出なかった。

以降の彼女の言葉を憶えていない。

激しい胸の痛み。

吐き気。

僕は自分を恨んだ。

恐らく今も自分を恨んでいる。

18歳の後半に落ちた恋。

3年半もの間、僕の想像ができない程に僕の事を愛してくれた恵美子を僕は裏切り苦しめた。

22歳の時に誓う。

僕はもう二度と自分から人を愛さない。

もう二度と女性を傷つける様な事はしない。

僕はもう二度と、自分を許さない。


今、

この瞬間、

あの時の事を思い出し涙が止まらない。


今までの人生で間違い無く僕の事を最も愛してくれた恵美子。

彼女がどこかで幸せに暮らしている事を心から願う。


ありがとう恵美子。

君がいたから僕はいる。


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