ハルカを失わない方法。
それはあまりにも簡単な答えだった。


「ハジマラナケレバ、オワラナイ・・・」

切なさと空しさの中で窒息しそうな程に胸を絞めつけられる。
僕は部屋の中で一人、この上ない醜い顔で笑っていた。
心の中で何度も繰り返す。
「ハジマラナケレバ、オワラナイ・・・」


しかし始まらない恋を胸に抱える事と、始まらないからと恋を捨てる事とは違う。
もちろん僕のハルカに対する思いが小さくなる事も消える事も無かった。
ただそれを自分の中で「現実」では無く「夢」へとすり替えなければならない。

僕はハルカとの絆が切れない為に、繋がる事の無い絆を追いかけ続ける事を選んだ。
僕が自分の気持ちを抑えれば良いだけの事。


始まらない恋の形を僕は探した。

それも簡単な答えだった。

「精神的恋愛」
プラトニックラブ。


具体的な理由も必要無く、ハルカという人間の存在が傲慢に生きてきた人生に対するけじめを僕に与えてくれた。
それだけで僕は幸せだった。



ハルカに初めて出逢った数日後、「部屋を奇麗に掃除しなきゃ!」と単純で当たり前の事を思い出した僕は100円ショップへと出かけた。
あまり手にした事が無かった様々な清掃用品を買い漁る。
そんな買い物時にふと目がいったアロマキャンドル。
「こんな所に、こんなモノがあるんだ!」
僕はキャンドルを手に取り眺めた。


荒んだ世界の中で、前だけを見て生きてきた。
失敗した事もある。
成功した事もある。
立ち止まりそうになった時々、全てを放棄して逃げ出したくなった時々も少なくは無い。
常に押し寄せてきた様々な嘘や裏切り。
人にはめられそうになった事、人にはめられた事も一度や二度では無い。


肩膝が落ちても、人の手を払い避け前を睨み闘い続けてきた僕の人生。
少し疲れていたのだろう。
キャンドルを手に涙が溢れた。


何年ぶりなのか、何十年ぶりなのか解らない涙。
過去には涙を流した記憶が無かった。


人に恋焦がれるという想いはその相手にその想いをぶつける事だけが形じゃ無い。
自分の気持ちは胸の中に抑え、相手を想い続ける事。
自分の幸せを求めるのでは無く、相手の幸せを願い続ける事。
そんな切ない思いも一つの恋の形。


自分がハルカを幸せにする事だけが愛じゃ無い。
ハルカの幸せを願う事も一つの愛と自分に言い聞かせた。


部屋を暗くしてキャンドルに火を灯した。
柔らかく暖かい炎。


同じ曲を何度も聴いた。
曲はジャネット・ジャクソンの「Where are you now?」
そして僕の涙腺が緩んでいた・・・。


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悲しい答えが自分の中で木霊する。


適当に人を愛せるのならば・・・

適当に人を好きになれたのならば・・・


これ程までに苦しむ必要は無かった。



女性の裏側を多く見る仕事を僕はしている。

ある知り合いの女性が僕に言っていた言葉。


「女は割りきりが早いし、割りきりができるのよ。」

「女の強欲さを解ってる?」

「女はしたたかな生き物なのよ。」

「女にとっては嘘も裏切りも簡単な事なのよ。大して心は痛まないの。」

「女は人を簡単に利用する。簡単に利用できる。」

「女の表面に騙されちゃいけない。だから私は女とはつるまないの。」


全ての女性がそうであるとは思わない。

思いたくも無いし、彼女の意見は偏りすぎているとも僕は思う。

しかし残念ながらその言葉達は全く的外れでは無い事を現実の中で目にする事も多い仕事を僕はしている。

そして多くの女性達に裏切られてきた過去も僕には存在する。


恋愛。


たとえそれが相思相愛であっても、ときめく心の裏側には必ず不安や悲しみが背中合わせに存在する。

もし互いに一生を通して相思相愛の愛を真っ当できたとしても、互いがその思いを胸に同時に死ねる確立は語る必要性も無い程低い。


いつの日か、必ず相手を失うのが恋愛。


たまに耳にする言葉。

「出会いの数だけ別れが有る。」

とても的を得ている言葉だと僕は思う。


別れ。


別れには奇麗な別れの方が少ない。

結果として「奇麗な別れ」と後に語れる物語に仕立て上げる事のできた別れでさえも、そこに至るまでの過程にあった苦しみや悲しみを心の中に封印してしまっているケースが多い。


僕のハルカに対する嘘偽りの無い「恋に落ちた」という思い。

そして18年ぶりのときめき。

僕は刹那的に考えてしまう。


恋愛恐怖症。


もう恋愛で苦しみたくは無い。

もう恋愛で悲しみたくは無い。

もう嘘や裏切りは味わいたく無い。

恋愛で得てしまった傷が癒えるのには時間がかかる。


人を傷つけたくは無い。

そして自分も傷つきたくは無い・・・。


僕の遭遇したのは「恋」では無く「夢」。

二十歳の彼氏がいる女の子と三十六歳の既婚者。

恋の始まるはずが無い。

あまりにも非現実的な世界。


ハルカとの出逢い。

ハルカに対する思い。

それは儚い「夢」。


その様に自分を洗脳しようとする。


そして僕の心は彷徨い探し答えを見つけてくる。


「人を失わない方法」

「恋を失わない方法」


簡単な答え。


ハジマラナケレバ、オワラナイ・・・。


悲しい答えが自分の中で木霊する。


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必要だった気持ちの整理。


ハルカは常に様々な事を僕に思い出させてくれる。

思い出すべき事。

思い出したく無い事。


ハルカは様々な事を僕に考えさせてくれる。

考えるべき事。

考えたく無い事。


過去。

現在。

未来。


僕は思い切りハルカを抱きしめたかった。

「絶対に幸せにする。」

そう伝えたかった。


自分の事を嘘偽り無く語ってくれたハルカ。


ハルカには大切な彼氏がいた。

僕がハルカに出会う事ができたのも、その彼氏がいたから・・・。

ハルカの大切な夢。


不思議な話では無い。

素敵なハルカに彼氏がいる事は想像できない話では無く、当たり前の事。


そして・・・。

気付けば僕も既婚者だ・・・。

ハルカに「愛している」と言う資格も無い既婚者。


彼氏がいるハルカ。

結婚している僕。


大きな絶望が僕を襲った。

言葉にできない。

涙も出ない。

ただの絶望。


「そうだよ。ハルカには彼氏がいて、僕には妻がいる。」

それが現実なんだよ。

自分に言い聞かす。


苦しかった。

言葉にできない程に。

悲しかった。

涙も出ない程に。


ハルカとの出逢いの中で、あの時以上の苦しみや悲しみに遭遇する事は想像できない。


現実なんて何時もそんなモノだった。

何時だって「瞬間」以外に現実が僕を応援してくれた事なんて無かった。

残念ながら、そんな人生だった。


それでも捨てきれないハルカに対する気持ち。

それが正しいとか正しく無いとかは僕に関係は無かった。


恋愛はモラルじゃ無い。


彼氏がいる女性に心がときめいてはいけないのか?

妻がいる男には人を好きになる権利は無いのか?


心なんてモラルじゃ抑え切れない。


僕は全てを捨ててでも、僕はハルカを愛したかった。

それでも良いと思える自分がいた。

でもそれは自分勝手な気持ち。


ハルカが僕に対してそう思ってくれる自信も保証も無かった。


僕がもう少し若ければハルカを抱きしめたかもしれない。
愛を語ったかもしれない。


単純に、

それをできない・・・、

それをしない僕がいた・・・。


18年ぶりの虹色にキラキラとときめく心の色。

そんな大切な心に白黒のフィルターをかける僕。


様々な過去を回想させてくれたハルカ。

様々な影響を与えてくれるハルカ。


僕はハルカを失いたくは無かった。

そして僕はハルカの幸せを願った。


それ程に、僕にとってはハルカとの出逢が大切なモノだった。

たとえ僕が傷ついてもハルカには傷ついて欲しく無い。

そう願う自分がいた。


あなたは・・・


「人を失わない方法を知っていますか?」

「恋を失わない方法を知っていますか?」


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僕は水商売の人間。

ハルカは風俗の人間。


大きく共通している事が一つある。

人に蔑まされる事がある仕事という現実。


水商売をしていて一番悲しい言葉。

「所詮、水商売だろ!」


仕事に誇りは持っている。


それなりに頑張ってもきた。

自分で使う事も多い言葉「所詮、水商売!」。

しかし、その言葉を他人に使われた時は胸に突き刺さる。

きっとコンプレックスだと思う。


僕はハルカを肯定してあげたかった。

彼女の努力を称えてあげたかった。

ハルカを応援したかった。

僕と同じ様なコンプレックスを持って欲しくなかった・・・。


「性犯罪の抑制を君達がしてくれているんだよ。」

「大変な仕事だろうけど頑張れよ。」

「今できる事を一生懸命にやればいい。」

「君の仕事は素晴らしい仕事なんだよ!」

大して気の利かない言葉を並べた。


少しは伝わったのか、ハルカは笑顔で「頑張ります!」と言ってくれた。

天使の様な笑顔。

僕の脳裏に焼きつく。


金が繋ぐ時間が終わりに近づく。


そして僕にはハルカに伝えたい事が二つあった。


一つ目。


小さな誇りと喜びを嫌な仕事の中にも見出して頑張っているハルカを傷つけない様に伝えたかった事。

「ハルカ。もしどうしても仕事が嫌になったら言ってこい。相談に乗る。」


以前に僕がハルカを救急病院へと連れて行った時に言っていた言葉。


「辞めるって言ったら顔をばらしてやるとか実家に仕事の事を言ってやるって言われた人もいるらしい・・・。」


僕にはハルカの為ならばどんな相手とでも闘う覚悟があった。

負けない自信もあった。


「辞めたくなって、トラブルになりそうな時でも絶対に助けてやる。」

「何も恐がらなくていい。僕はハルカの為になら鬼にでもなってやる。」


ハルカは小さい笑顔で小さく言った。

「ありがとうございます。」


そして伝えたかったもう一つの言葉。


「女性を見るプロの言葉だから信じていい。君はもっともっと美しく、そしてもっともっと魅力的になれる。」

「それを僕は応援する。」


僕の言葉に偽りは無い。

僕の感じていたハルカの魅力はとても大きく、それを引き出してあげたいと心から思っていた。

「これは僕にとってのプリティーウーマンごっこなんだよ・・・」


天使の笑顔。

「頑張ります。色々と教えて下さい。」


僕は言った。

「任せとけ!君の経験した事が無い事を経験させてあげる。君の食べた事が無いモノを食べさせてあげる。」

「君の知らない世界を僕が教えてあげる。」


暗い瞳と、天使の笑顔を持つハルカ。

僕はハルカの暗い瞳が明るい瞳に変わるまで見守り続けたいと心から思っていた。


一緒にいる時間が永遠でも足りないと感じていた僕。

「そろそろだね。」と自分の気持ちに踏ん切りをつける。


そしてハルカを見送り、一人となる。


僕の中では整理をしなければならない思いがあった。

きっと僕の瞳もハルカに負けない暗い瞳であったに違いない。


なぜ僕は君を抱きしめなかった。

なぜ自分の思いをハルカにぶつけなかった。

「愛している」と、なぜ言えなかった。


カッコつけでバカな自分を僕は恨む・・・。


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僕は限られた時間の中でハルカと語った。


ハルカは約二ヶ月ほど前に人口約10万人の工業都市からこの政令指定都市へとやってきた。

田舎では地元の金融機関で勤めていたとの事だった。


ハルカには高校生時代から付き合っている彼氏がいた。

その彼氏は就学の為にこの街へとやって来る。

当初は遠距離恋愛を続けていたのだが、その彼氏がこの街で新しい女を見つけてしまう。


彼氏の浮気。

そして恋の破局。

苦しんだハルカは意を決してこの街へと出てくる。

大切な恋を取り戻す為に。

大切な彼氏を取り戻す為に。


何の宛もないこの街へ信念だけを胸に抱きハルカはやって来た。

二十歳の女の子の情熱。

感服する。


冷たい街はハルカを深く呑み込んだ。


情熱を胸に抱き街へと出てくる人達を僕は数多く見てきた。
しかし街に在るのは夢じゃない。

過酷な生存競争だけだ。


夢破れ去る人々。

夢失い流されていく人々の数は夢を手にする人の数とは比較にならない。


信念だけを胸にやって来たハルカは夢を手に入れた。

彼氏を奪い返した。

しかし街に深く呑み込まれたハルカは気付くと風俗で働いていた。

そしてそれを彼氏は知らない。


街で生きてゆく手段としての風俗での仕事。

誰にも否定できる事では無い。

むしろ強く踏ん張っている姿に僕は共鳴を受ける。


「お前、所詮風俗嬢だろ!」

「金払えば何でもやるんだろ!」

そんな悲しい言葉を吐く人々は必ずいる。

そんな悲しい世界。

女性はモノじゃない・・・。


ハルカはこの仕事が好きだと言った。


好きと思えなければ気が狂う程の環境が今のハルカが居る場所。

良い人も確かにいるだろう。

しかし嫌な思いも数多くしてきたに違いない。

しかしそれがハルカの夢と引き換え得た場所であった。


少し悲しそうな笑顔でハルカは言った。

「彼氏とは寄りが戻ったんですけど、上手くいってないんです。彼氏が子供すぎて・・・。」


この街で生きて行く為に必死なハルカ。

仕送りと簡単なバイトで生計を立てている学生の彼氏。

街は二人の精神年齢にも溝を作っていく。


しかしハルカが歩いている道は全て彼氏の為。

彼氏の為に街へ出てきて、彼氏と離れない為に風俗で働く。

彼氏の為に彼氏に知られてはならない仕事をするハルカ。


僕は切なかった。


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