憲法の保障する、基本的人権。

3原則の一つにも数えられ、尊重せねばならない、とされています。


しかし法の運用が始まるにつれ、全ての「人」にすべからく適用するには種々の問題があることも分かってきました。


その代表格4つを、順番に学んできました。


いよいよ最後の「」、です。


そもそも法人って人じゃないのに、憲法が適用されることなんてあるの?? と感じませんか。


では、判例をみてみましょう。(今回も時系列に、古い順です)


製鉄所の社長(覚え易くするため、一旦こう呼びます)が会社の資金(350万)を自民党へ政治献金し、利を害されたとして株主に寄附の無効を訴えられた事件。


これが始まりでした。


株主は、社長をよっぽど許せなかったのか、

①定款外の行為で、権利能力を有しない(民法34条)

憲法は参政権を自然人(人に対する呼び方)にしか認めておらず、民法90条(公序良俗違反)により無効

③取締役の忠実義務(商法254条、現在は削除)に反する

と、あらゆる言い分を立てて来ました。


この、特に法学的結論を導くために、憲法法人適用について考えざるを得なかったという訳です


まず①について。

民法34条は「法人は、…定款…で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」と規定しており、一方この製鉄所は政治献金につき定款へ特に記載が無かったため、寄附は無効だ、と株主は主張した訳です。


一見、合理的に感じる主張ですが、認められませんでした

判決文は『目的の範囲内の行為は定款明示のものに限らず間接的なものも含まれ、行為の客観的性質に即し、抽象的に判断されねばならない』とした上で、『会社は自然人と等しく社会の構成員たる社会的実在であり、また憲法は政党の規定がないものの議会制民主主義の観点から当然に予定しているというべきで、その健全な発展への協力は会社に対しても当然に期待される』(つまり、定款外の行為とは言えず、法人は政治資金を寄附する権利能力を有する)としました。

個人的には、この先の言い回しが好きなんですが(笑、『上告人の論旨はすべて独自の見解という他なく、採用できない』として、訴えを退けた顛末です。


次に、問題のの点。


判決文は『憲法上参政権は自然人たる国民にのみ認められるが、会社が自然人たる国民と等しく納税者たる立場で政治的意見の表明等に出たとしても禁圧すべき理由はなく、のみならず、憲法に定める国民の権利および義務は性質上可能な限り、内国の法人にも適用されると解すべき』(つまり、法人にも政治活動の自由【憲法21条・表現の自由】は保障される)とし、『会社による政治資金の寄附が国民個々の参政権を直接侵害するものとはなしがたく、金権政治や外国人の有力株主による政治干渉といった弊害があるにしてもそれは立法政策を待つべきことで、憲法上は公共の福祉に反しない限り会社といえども政治資金の寄附の自由を有すると言わざるを得ない』と、若干司法の限界も滲ませる様な結論としました。(結局、公序良俗の秩と善の風に対する違反は無い、ということ)


何だか、表現的には、否定要素が見当たらなかったため講学上やむなし法人にも基本的人権を性質上可能な限り適用することにしといて問題ないだろう、くらいの温度にも感じられます。(これは個人的な感想です)


そして、最後の③。

前提となる商法254条の2は、現在の会社法355条に移管されており「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない」とされています。


判決文では、『商法254条の2は民法644条(受任者の善管注意義務)等の善管義務を敷衍ふえん難しい部分をカンタンに言い換えることし明確化したに留まり、通常の委任関係とは別個の高度な義務を規定したものとは解することができない』とし、『もし取締役が自己又は第三者の利益のため政治資金を寄附したなら言うまでもなく忠実義務に反するが(注: 前回やった傍論、オビタ・ディクタムですね!)論旨はそうでなく一般(論)に会社資産からの寄附金支出は結果として自己のための費消とだけ主張するものの、会社の機関として取締役がその衝にあたること特段の事情のない限りこれをもって私益追求の行為とすることはできない』とした上、さらに『政党側の乱費防止措置としての使途限定もせず取締役会の審議すら経ていない点も指摘するが拳証責任につき立証がなく、論旨は前提を欠き肯認できない寄附額も会社規模や経営実績を考慮しても合理的範囲を越えない』として上告を棄却しました。


最後の③については、ちょっと難解でしたね。何か司法が会社の肩を持ち過ぎてるようにも見えて、株主が若干気の毒なようですが…


さて、あと2つ、法人に関する判例をご紹介します。


九州で働く税理士が、所属する税理士会から2度に渡り各5000円の特別会費(税理士法改正運動のための経費)を求められ2回目の支払を拒んだところ、会費滞納とみなされ役員選挙名簿から除外されたため、税理士政治連盟への寄附は税理士会の目的範囲外の行為で特別会費納入の義務はないことの確認や選挙権停止に対する慰謝料(500万+遅延損害金)を請求した事件。


勝訴しました。


訴えが認められるケースのご紹介をあまりにできないので、殊更アクセントしてみました(笑


以下、判旨です。

(※政治献金と表現しますが、正確な表現は「政党への政治資金の寄附」です)


『民法34条(法人は、定款で定められた目的の範囲内において権利を有し、義務を負う)の理は会社に対しても基本的に妥当する(この表現も個人的に好きです)が、会社における「目的範囲内の行為」は定款明示の目的以外にも遂行上間接的に必要なものも包含され、会社による政治献金も客観的・抽象的に観察し会社の社会的役割を果たすと認められるものに限り「目的範囲内の行為」とするを妨げない』(ついさっき紹介した製鉄所社長の政治献金の判例を引用してますね!)

『…が、法人とされるものの国税局の管轄区域ごとに設立が義務付けられ、実質的に脱退の自由が保障されない強制加入団体である税理士会は、会社とは法的性格を異にする法人であるためその目的範囲につき同一に論ずることはできない

『税理士会員は多数決原理で決定された活動への協力義務があるものの強制加入法人である以上構成員には様々な思想・信条・主義・主張が存することは当然に予定されており要請される協力義務にもおのずから限界がある。特に政治献金をするかどうかは選挙の自由と表裏を成し各個人の思想・見解に基づき自主的に決定すべき事項であり、税理士会に協力の義務付けをする権利はなく、そもそも政治献金自体を税理士法は全く予定していない

『…がため、税理士会の政治献金はたとえ税理士法改正の要求実現目的でも、目的範囲外の行為であり、無効と解するほかない


あぁ、長い…


ですが、最後のシメがまた好きなんです(笑


『税理士政治連盟が規正法上の政治団体である以上広範な政治活動が予定されており、原審の判断は法令の解釈適用を誤った違法があり、その余の論旨につき検討するまでもなく原判決は破棄を免れない


いやー、カッコイイ。

言い方が好きです。言われた側はたまったもんじゃないかも知れませんが。笑


さあ、最後の判例にいきましょう。


と、その前に、阪神・淡路大震災を覚えてらっしゃいますか?


言うと年代がバレてしまいますが(笑、私はこの日小学校をたまたまズル休みした日だったので、よく覚えています。

家でテレビが付いていて、終日損壊した街並みが報道されていました。


今回の舞台は、被災地である兵庫県に本拠を置く兵庫県司法書士会を援けた、遠く離れた群馬県司法書士会(なにか親交があったんでしょうか?)3000万円の復興支援金を寄付することにし、その財源として役員は手当を一部返上、会員にも一定の負担と理解を求めました。


が、司法書士会の目的範囲外の行為であり、強制加入団体でもあるため支払義務はない(出ました。ついさっきの税理士会の判例引用です!)と債務不存在の訴えを会員に起こされました。


うーん、どういう由縁で支援する話になったのか不明ですが、それにしても被災した方々も大変なんやけ、そういう時こそお互い様、大人しく払ったれよ…とも少し感じてしまいますが。。


権利は権利です。主張し、使うために認められたものです。


で、こちらの寄付金拠出のための会員への支払負担認められました

なぜ?税理士会の案件とどこが違うの??


では、見ていきましょう。


意訳もごく一部に入れつつ、判決文を抜粋すると以下のようになります。


『司法書士法14条(司法書士の品位を保持し、業務の改善進歩を図り、会員の指導・連絡事務を目的とする)に基づく目的遂行上間接的な必要範囲での他司法書士会との協力・援助も活動範囲に含まれるというべきで、また甚大な大災害であったことを考慮すると金額も目的範囲を逸脱するとまで言えず拠出金の寄付は司法書士会の権利能力の範囲内にあるというべき

『そうすると、被上告人(上告された側、今回は司法書士会です)は拠出金の調達方法について公序良俗に反し会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合(役員は何も腹を切らないのに会員にだけ拠出を強制するとか、これ以前に司法書士会幹部の不祥事が相次いでいたとか)を除き決定権を有するというべきで、強制加入団体であることを考慮しても、負担金徴収は(税理士会政治献金事件と違って)会員の政治的・宗教的立場や思想信条の自由を害さず、金額も社会通念上過大な負担を課すものではない』


…とした上で、『原審の判断を正当と是認する(会員には拠出金の支払義務がある)』としました。


税理士会事件と司法書士会事件の最大の違いは、憲法3原則でもある「国民主権(つまり参政権…ここでは選挙権でした)」に、税理士会事件政党に対する寄附だったため抵触してしまった、逆に司法書士会事件それが絡まない宛先への寄付だったため問題とならなかった、という点です。


毎度、長くなってしまいます。

まとめて、今回も終わりましょう。


・大げさに言うと、製鉄所の株主が会社の資金で政治献金した社長に対し「参政権」を持ち出して無効を訴えたせいで法人にも憲法の基本的人権が保障されるか否かを議論せねばならなくなった

・上記判例にて、最高裁は法人を納税者という点では自然人と同じ』と評価し(ちょっとこじつけっぽい様な…)、禁圧すべき理由はなく権利や義務も性質上可能な限り内国法人に適用すべきとした。

・判例では、同じ強制加入団体という性質を持つ法人でも選挙権(参政権)の絡む政治献金となると法人の目的範囲外の行為とされ無効、そうでない(震災支援金なら目的範囲内で有効とされた。


《民法34条(法人の権利義務)》

 法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う


《民法90条(公序良俗違反)》

 の秩又は善の風に反する法律行為は、無効とする。


本日もご苦労様でした。

また次回m(_ _)m