憲法が保障する「基本的」。

これを、どこまでの範囲の『』に適用すべきなのか。

過去、この問題を巡って裁判となった4人)を順番にご紹介しています。


前回は「」。


監獄内の囚人に対する禁煙は、必要かつ合理的な制限と解するのが相当、とされました。

また新聞閲読の自由は、それを認めることで秩序の失われる恐れが一般的・抽象的では足らず相当の蓋然性まで認められることが必要、とされました。


さて、今回のテーマは「外国」です。


先にお伝えしておきますが、長いです。

判例が多いので、古い方から順に見ていきます。


まず昭和32年、日本への入国を拒否された外国人の裁判。


この外国人の方は、憲法22条1項)「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」を根拠に処分入国拒否は無効であると主張しました。

最高裁は、同条2項何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」も勘案すると、憲法は外国人の入国について何ら規定しておらず外国人の入国は国家の裁量であり入国許可の義務はなく外国人に入国の自由は認められない、と判決を下しました。


次に、同じく昭和32年のクリスマス、朝鮮国籍の方への判決。


 外国人登録令(既に全廃)違反で実刑判決を受け、懲役刑の執行を控えた朝鮮国籍の外国人が

 朝鮮に帰国しようとし出入国管理令(現・入国管理法の前身)違反で現行犯逮捕され

①の懲役刑の執行開始後も②の容疑につき勾留処分とされた事件。


…判例の解説以前に少し気になるのは、この朝鮮国籍の方がそもそもナゼ日本に来てたのか? という事ですが、

歴史的には昭和20年に日本が終戦を迎え、昭和25年に朝鮮戦争(2次大戦中の日本の植民地支配から独立した朝鮮半島にて、6月に北朝鮮軍が突如として軍事境界線(いわゆる38度線)を越えて韓国へ侵攻したことで始まった戦争)が勃発した後くらいの時代で、日本は高度経済成長期にある一方で朝鮮半島の経済事情は良くなく、韓国人等の不法入国が極めて増えた時期だったようなので、その辺りが関係してるんでしょうか。。


ともかく、この朝鮮国籍の外国人の方は『そもそも出入国管理令の規定が憲法222項)「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」に違反しており、(現行犯逮捕や起訴といった)処分は無効だ』と主張。

更に、上記勾留期間につき、その後確定した実刑判決に参入(勾留された期間を、実刑の期間から差し引くこと…前回記事【公囚外法(囚)】でやりましたね!して欲しい、とも主張しました。


結果、22条2項の外国への移住権外国人に限って保障しない理由はない(つまり、出国の自由は外国人に対しても保障されている)『、旧出入国管理令の規定はあくまで手続き上のもので公共の福祉に適っており、結果的にそれで外国移住の自由が制限されたとしても合憲性を有する規定と解すべき、としました。

また期間参入については、実質被告人の身体が受けていた自由刑は1つにも関わらず2つの刑が減刑されるのは不合理として、自由刑が競合(懲役刑と、別件での勾留)していなかった勾留期間のみ実刑に参入すると結論づけています。


フムフム、判例を丁寧に読んでいくと非常に腑に落ちる、合理的な判決となっているように感じます。


さあ次は、昭和53年、在留資格の取得後、指定校以外で英語教師をしたり、滞在中に政治的な集会や運動に度々参加したアメリカ人の話。


このアメリカ人が在留期間の更新を申請したところ、『更新を適当と認めるに足りる、相当な理由があるものとは言えない』と更新不許可の処分を受けました。


アメリカ人は、憲法22条1項職業選択等の自由)を根拠にこの処分を違法として訴えました。


判決文は『基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象としているものを除きわが国に在留する外国人に対し等しく及ぶ』とし、『政治活動の自由も、外国人の地位にかんがみ認めることが相当でないと解されるものを除き保障が及ぶ』とする一方、『しかしその保障外国人在留制度の枠内で与えられているに過ぎず在留権および在留期間延長の要求権憲法上保障されているものではなく、国(法務大臣)の裁量を拘束するまでの保障は与えられていない』としました。


因みに「権利の性質上日本国民のみを対象としているもの」は、また後ほど登場します。


次なる判例は平成元年、幼少期にはしかを患って失明し、36歳で日本籍を取得した大阪生まれの元韓国籍の方が、25歳時点の日本国民のみ対象とした国民年金法の障害福祉年金の不支給につき、憲法25条(いわゆる生存権)及び14条(法の下の平等)違反で国を訴えた事件。


しかしこれも、覆りませんでした。


『「健康で文化的な最低限度の生活」はきわめて抽象的・相対的な概念で、その具体化に当たっては国の財政状況を無視できず自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許されるべきと解され、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、憲法25条に違反しない』としました。


また、『憲法14条1項は不合理な差別を禁止する趣旨であり、種々の事実的差異を理由とし法的扱いに合理的区別を設けること合憲』と判示。


うーん、元々日本生まれの方で、苦労もされてこられただろうに…と少し同情してしまいます。


次の判例です。

ようやく、平成4年秋まで来ました。日本人男性と結婚したアメリカ人女性が、韓国旅行を計画したものの再入国の許可が下りず、この不許可処分を違法として国を訴えた事件


『再入国が許されないなんて事ある?』と感じてしまいますが、なぜなのか?

その理由と、訴訟の結末をみていきます。


法的な余談ですが、「帰国」は外国から戻って来る日本人の再入国を指す用語なので、ここでは「再入国」(上陸許可(再)とも呼ぶ)が正しい表現となります。


さて、このアメリカ人女性、当時の在日外国人の間で反発が高まっており、後にいわゆるプライバシー権として認められるきっかけともなった外国人に対する「指紋押捺」を拒否していたため、再入国を拒否されていました。


ちょっとややこしいのですが、このアメリカ人女性は再入国の不許可理由である指紋押捺の制度について訴えたのではなく再入国の不許可自体が憲法22条(居住・移転の自由)に反するとして訴えました。


結果、最高裁は再入国も通常の入国同様、国の裁量であり入国許可の義務はない(つまり間接的に、外国人の再入国および海外旅行の自由は認められない)と判示しました。


で、実際に現在でも「再入国手続き」は存在します。後ほどご紹介する法務省の外局、出入国在留管理庁が管轄する事務の一つとなっています(当判例の影響に因るものが大きいと見られる)。


因みにこのアメリカ人女性、9年も日本に在留していて、この裁判以前には3度も再入国を許可されてたのに、指紋押捺を拒否った途端この仕打ちを受けました。

国の当時の考え方も倫理的じゃないなと感じる一方、そもそもアメリカ人女性側は帰化という選択肢はなかったのかな、とも感じます。


また余談ですが、定住永住帰化は全て違います。

定住在留期間5310.5年があり、設定された期間内に更新する必要があります。

永住在留期間がないものの、在留カードの更新が必要です。

帰化はもう日本人になってしまうため、在留期間という概念がそもそも介在し得ません


永住帰化はどちらも在留期間は無制限ですが、最大の違いは国籍です。日本はアメリカ・フランス・イギリス・ドイツといった欧米諸国と違い原則として重国籍を認めていないため、帰化すると日本国籍を取得する一方元の国籍を喪失します。先でまた詳しく勉強しますが、日本国籍取得によるメリットは主に選挙権公権力を行使する役職への(敢えて公務員と呼んでません)就任権が得られる事です。つまり逆に、喪失する元の国籍国でそれらの権利を失う可能性があるという訳です(元の国籍国が、重国籍承認国であれば別)。


また定住永住出入国在留管理庁に申請しますが、帰化の申請は法務局に行います(どちらも、法務省の外局)。


…更なる余談ですが、帰化(在留最低要件5年)より永住(同要件10年)の方が承認率は低いようです。そもそも永住の方が要件としてのハードルが高いのはナゼ…(・・?


…と、そろそろ話を戻して、次の判例へ行きます。


あと、2つです!


平成7年、選挙人名簿への登録を拒まれた特別永住資格永住資格と違い、2次大戦の日本敗戦による影響で日本国籍を喪失させられた在日外国人に付与された特別な永住資格)を持つ韓国の方が、憲法15条1項が保障する『公務員の選定・罷免は国民固有の固有……”ジンソン”で人権の3性質について学んだ際でてきてましたね。生まれながらに、の意味でした)権利である』に反すると訴えた事件。


やはり、負けました。


最高裁は、この選挙権(広義には参政権)こそ権利の性質上、日本国民のみを対象としていると解されるもの』だとしました。

同様に、『地方公共団体は我が国の統治機構の不可欠要素であり、憲法の地方自治の章に言う「住民」も、区域内に住所を有する日本国民を意味すると解するのが相当であり、在留外国人に対し選挙権を保障したものということはできない』と結論づけました。


但し、この判決文には続きがあります。


但し、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、在留外国人のうち永住者等の意思を公共事務の処理に反映すべく、法律をもって選挙権付与の措置を講ずることは憲法上禁じられていないと解する』と、あくまでそれは国の立法裁量でありそういった措置を講じないからといって違憲の問題が生じる訳ではないが、との前提で救済の可能性も示唆しました。


…優しい。(笑


こういうのを傍論(ぼうろん。英米法の講学上は「オビタ・ディクタム」と呼びます……主文に帯びた部分と覚えましょう)といいます。


さあ、ラストの判例です!!


平成17年、岩手出身・44歳の韓国籍の方が東京都で保健婦として働いており、管理職試験の受験を断られ慰謝料請求を行なった事件。


残念ながらこちらも、認められませんでした。


判旨としては、以下のようなものです。

『地方公務員の中でも当該団体における管理職の職務は住民の生活に重大な関わりを有しており、国民主権の原理憲法3原則の"民主"!)に基づき原則日本国籍の者が就任することが想定されているとみるべきで、他国家での権利義務を有する外国人の就任は本来我が国の法体系の想定するところではない

『したがって、職員の管理職昇任につき日本国民である職員と在留外国人である職員を合理的理由に基づいて区別することは、労基法3条および憲法14条に反しない


裁判官の中で反対意見もあったようですが、控訴および上告費用までこの韓国籍の保健婦さん持ちというのはちょっと酷なのでは……という、個人的な感想です。


今なら違うのかも知れませんが、もう少し、法の救済があっても良いのでは…と。。


さて、スーパー長くなってしまいました。

まとめます。


・憲法の保障する基本的人権は、権利の性質上国民主権の原則上日本国民のみを対象としているもの選挙権公務員就任権といった、いわゆる参政権を除き、在留外国人(もういいですね。帰化した方を除く在留外国人という事です)にも等しく及ぶ、と解されている。

入国再入国の自由は、憲法22条の解釈から特に規定がなく国家の裁量とされ許可の義務はない(つまり外国人に対し憲法上明文で保障されてはいない

出国の自由は、憲法22条の解釈から外国人に限って保障しない理由はない、とされている(つまり外国人に対しても憲法上保障される)。

政治活動の自由は、外国人の地位にかんがみ認めることが相当でないものを除き保障が及ぶとしつつも、それは在留制度の枠内で付与されたものに過ぎず在留権在留期間の延長要求権憲法上保障されている訳ではないとした判例がある。

・財政上、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き憲法25条(生存権)に反しないとした判例がある。

憲法3原則の一「国民主権」を根拠に、選挙権や公権力を行使する役職国家公務員地方公務員の管理職への就任権は外国人に認められない。但し傍論帯びた・ディクタム)により、永住者等へ立法による選挙権の付与は禁じていないと救済の可能性を示唆した。


最後に、今回でてきた憲法の条文をおさらいして、終了です。


《日本国憲法14条(法の下の平等)》
※法の下の平等を実現させる14意志)は固い
 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。


《同法15条(公務員の選定・罷免権)》
15行こう!)選挙に
 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。


《同法22条(移住・職業選択の自由)》
22夫婦)で引越・転職・海外旅行
 1 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住移転および職業選択の自由を有する。
 2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。


《同法25条(生存権)》
2525(ニコニコ)文化的な生活
 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。


長かった…

お付き合い頂き、誠にありがとうございます。

本日は以上です。
いつも、ご苦労様ですm(_ _)m