憲法が保障した「基本的人権」、その適用対象(範囲)を巡り過去に争訟となった4つの代表例を学んでいます。


1つ目(1人目)は公務員で、合理的で必要やむを得ない限度にとどめる限り憲法21条が保障する(公務員自身の政治的信条に関する)「表現の自由」は制約を受けうる【(公務員に対する)表現の自由への制約は合憲だ】という話でした。


今日は、基本的人権が制約されることとなった2人目【囚人】について学んでいきます。


まず囚人ですが、本記事内では覚え易くするためそう表現しますが、正確には【被収容者】と呼びます(昔は公式に監獄と呼ばれた時期もありましたが、現在は「刑事収容施設」と呼称するため)。


ちなみに憲法では、囚人に関連する規定として、

何人も…犯罪に因る処罰を除いて…意に反する苦役に服させられない』(憲法18条)や、

何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない』(憲法31条)などがありますが、

これらは翻せば、犯罪に対する処罰としてなら拘禁刑(従来の禁錮・懲役刑が、25.6.1〜この名前に統一されます)を認めるし、法律の定める手続きを踏めば死刑も合憲だ、という意味になります。


ちょっと怖いですね。

でも記憶する上で、イメージはとても大事です。


さて、囚人への人権規定の適用で、問題となった1つ目は「タバコ」です。


未決勾留(逮捕〜判決まで身柄を拘禁されること。判決確定後、勾留期間が刑より減じられます)者が、喫煙を禁じた旧監獄法による精神的損害の賠償を求めた事件。

原告(国家賠償請求の訴訟は民事訴訟に類するため、こう呼びます。⇔ 被告)の主張は、禁煙の規定憲法13条『すべて国民は、個人として尊重される。…自由及び幸福追求に対する国民の権利…は、公共の福祉に反しない限り…最大の尊重を必要とする』(いわゆる幸福追求権に反しており無効だ、というもの。


私がタバコを吸わないせいか、この裁判の判決文が腑に落ちて個人的には好きです。


以下、判旨です。


「喫煙の自由を認めることで火災・通謀・罪証隠滅等、監獄内の秩序維持にも支障をきたすおそれがあり、必要限度において合理的制限を加えることもやむを得ない

 他面、煙草は生活必需品とは断じがたくある程度普及率の高い嗜好品にすぎず、禁煙が愛好者に対し相当の精神的苦痛を感ぜしめるとしても、それが人体に直接障害を与えるものではない

 即ち、喫煙の自由は憲法13条の保障する基本的人権の一に含まれるとしてもあらゆる時・所において保障されなければならないものではない


したがって、この様な拘禁(⬅一般用語として。新たに導入される拘禁刑のことではない)目的制限される基本的人権の内容制限の必要性などを総合考察すると、禁煙という制限は必要かつ合理的なものである解するのが相当、として合憲判決が下されました。


うーん、法律ってやっぱり何だかいいな。

と思ってしまうのは、やはり私がタバコを吸わないからでしょうか。


囚人に問題となった2つ目は、「新聞記事の削除」です。


左翼(革新派)の未決勾留者が、監獄内で私費購入した新聞の特定記事が抹消されていたことに対し、思想・良心の自由を定めた憲法19条および表現の自由憲法21条)に反するとして国家賠償請求訴訟を起こした事件。


結果として、こちらも制限は必要かつ合理的な範囲にとどまっており合憲と判断されました。


以下、判旨です。


「未決勾留者は、逃亡または罪証隠滅の防止目的と、監獄内の秩序維持目的の限度内においてのみ自由を制限される。これら制限が必要かつ合理的かどうかは、目的のため必要とされる制限の程度制限される自由の内容と性質具体的制限の態様と程度等を較量して決せられるべきである。

 また各人が自由に様々な意見・知識・情報に接する機会をもつことは、個人として自己の思想および人格を形成・発展させる上でも、また民主主義の基本原理からしても必要であり、ゆえに閲読の自由が保障されるべきことは憲法19条や21条の趣旨から派生原理として当然に導かれ、それが憲法13条の趣旨にも沿う

 しかしこれに優越する公益のため合理的制限を受け得る。

 しかし、被拘禁者も同制約の範囲外では原則として自由を保障されるべき者であるため、閲読を許すことで規律および秩序が害されるおそれが一般的・抽象的では足らず相当の蓋然性が認められることが必要である。

 本件につき、監獄内で以前より秩序への激しい侵害行為が頻繁に発生しており、公安事件の被告人である上告人らに閲読を許すと秩序維持上の障害を生ずる相当の蓋然性があるとしたことには合理的根拠がある


そして、最後が好きなんですが、

「…よって、民訴法396条、384条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文の通り判決する


いや〜、カッコイイですね。

「カッコイイ」と素直に感じられることも、モチベーションを上げる大事なポイントです。


因みに、この時抹消された特定記事というのが日本初のハイジャック事件となった「よど号事件」です。余談ですが、「よど号」と聞いて私は勝手に海船を連想していましたが、実際は航空機の愛称です。

尚、犯人は未だに捕まっていません。なぜなら、犯人グループはそのまま北朝鮮へ亡命したからです……興味ある方はお調べあれ。


ついでに刑法の話を少しすると、
被疑者(文字通り疑われている者)は逮捕されると、逃亡・罪証隠滅防止のため勾留されます。(➡留置場警察庁管轄)
②やがて送検され、まだ勾留を受け得ます。(➡拘置所法務省管轄。全国に8ヶ所のみ
③起訴されると被告人(文字通り告げられた人)と呼ばれ、本人が出廷しない事態を避けたり被害者側証人への脅迫等防止のため更に勾留の可能性があります。(ここまでの①〜③が全て未決勾留者
④判決確定すると受刑者(文字通り刑を受ける者)となり刑務所へ。(因みに、更生不能と評価された死刑囚刑務所ではなく拘置所に入る)この時、①〜③までの勾留期間を、拘留や拘禁といった自由刑の期間から差し引く事ができる

さらに余談ですが、刑務所(刑が確定済)・少年刑務所拘置所(刑が未確定 + 死刑囚)の3つの総称が「刑事収容施設」です。

さてさて、今回も長くなりました。

判例は今回判旨として紹介したため割愛させて頂き、まとめと関連条文を振り返っておしまいです。

喫煙の自由が、幸福追求権(憲法13条)に含まれるか否か最高裁は言及を避け、その上であらゆる時・所において保障されなければならないものではない(監獄内での禁煙は、必要かつ合理的な制限と解するのが相当)とした。
・囚人にも新聞閲読の自由は保障されるべきだが、公益のため合理的制限は受け得る。但しその際、監獄内の秩序が害される恐れが一般的抽象的では足らず、相当の蓋然性が認められることが必要と結論づけた。(同判例では以前から監獄内の治安が悪く、相当の蓋然性が認められた)

《日本国憲法13条(幸福追求権)》
幸福13意味)を追求する
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

《同法18条(苦役からの自由)》
苦役18イヤ)だ
 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

《同法19条(思想・良心の自由)》
※内心に19行く)とそこは自由
 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

《同法31条(法定手続の保証)》
31サーティワン)はキッチリ、法定手続を守る
 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない

本日はここまでとなります。
いつもご苦労様です。