さあ、憲法が保障した基本的人権の、具体的な中身に入っていきます。


まず今回、取り扱うのは、その基本的人権がどこまでのに適用されるのか、という話題です。


人権なので当然、に対して付与されうる権利なんです。しかし憲法が施行されて以降、我が国の司法は、人の中でも特定の立場の人間や、人と名の付く人ではないものに対しても、他法との兼合いや取り巻く争訟の中でこの人権をどこまで適用すると解釈すべきかの判断を迫られてきました。


その主な対象となったものが、今回の記事タイトル『公囚外法』です。


すなわち、

 公務員

 囚人

 外国人

 法人

です。


あくまで覚え方のイメージで、実際にはそうとも限りませんが、上2つは日本人、3つ目は日本人じゃない、最後の4つ目は人ですらありません


まず、1人目の公務員


国家公務員法(憲法施行5ヶ月後に公布)との兼合いで、政治的信条の表現をどこまで認めるかが問題となりました。


どういうことかと言うと…


国家公務員法102条には、

職員は…人事院規則で定める政治的行為をしてはならない(一部抜粋)

とあります。


ちなみに、政治的行為とは端的に、政治的目的を持った何がしかの行為のことを指しますが、それは自身の政治的信条を表現することでもあります。


一方、憲法21条には、

言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する』(一部抜粋)

とあります。


…この2つの規定って、一見矛盾してない? って話なんです。


有名判例をご紹介します。


社会保険庁(元・厚労省の外局外局は、専門事業を切り離した言わば子会社とお考え下さい)のヒラ公務員が、支持する政党のビラを休日に撒き、国家公務員法と人事院規則違反で起訴された事件。


ヒラ公務員は、先に挙げた国家公務員法102条(と人事院規則)の規定が、憲法21条のいわゆる表現の自由にそもそも反しており処罰は無効だと主張。裁判で争いました。


が、結果として、公務員に完全な表現の自由は認められませんでした。


裁判所は、国家公務員法と人事院規則の規定には合理性(政治的中立性の確保による、公務への支障防止)があり、合憲であると判断。


つまり、公務員の政治活動の自由を、一定程度(合理的で必要やむを得ない限度にとどめて)制限することは憲法21条に違反しない、と結論づけました。


そうまでして(憲法解釈をアレンジしてまで)、公務員の政治的中立性を確保しようとするのは、例えば窓口に来た国民の支持政党がたまたま担当した公務員と同じか否かで、ひいきされたりイジワルされる様な理不尽な事態を防ぐためでしょう。


ここまでの話で、基本的人権(ここでは、政治的信条を表現する自由)が公務員に対し完全には保障されず、ただちゃんとした根拠の元に制限を受け得るのだ、ということはお解り頂けたかと思います。


…ここで同判例について話を終えたいところなんですが、試験に出るのでもう少し掘り下げます(笑)


さて、国公法と人事院規則が合憲と判断された一方、裁判所は、今回のようなケースは国公法と人事院規則が定める罰則規定にそもそも当たらない、とも判示しました。


これは、今回の政治的行為と思しきもの(あえて一旦こう呼んでます)が職務時間外に、公務員としての体裁なく成されたもので、まして職務上の権限がほぼ無いヒラ公務員(窓口で国民をひいきしようにもする権限すら無い)ならば、国公法と人事院規則が制限しようとしている政治的中立性を失う程の行為とは捉えなくて良いでしょう、という判断によるものです。


この政治的中立性を失う程の行為を、人事院規則では「政治的行為」と定義しているようです。


ちなみに裁判所はこの言葉の定義を、同判例の中で、

「政治的行為」とは,政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められる政治的行為をいう(一部抜粋)』

と判示しました。


要は、定義に当てはまるのは勿論の事、政治的中立性が現実にもう、失われてしまいそうな程の行為ということです。


非常に細かい指定ですが、それだけ表現の自由を尊重しているという事です。


似た判例で、郵便局員(余談:民営化前で、当時は公務員でした。今も、法的には『公務に従事する職員とみなさ』れます【準公務員、みなし公務員は俗称】。法的には公務員と同じ様な制限を受けます)が自身の支持政党のポスターを掲示・配布し、同じく国公法&人院規則違反で起訴され争った結果、やはり国公法と人院規則は合憲合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、公務員への(表現の自由に対する)制限は憲法の許容するところ)と判断されたものもありました。


この郵便局の判例では更に、公務員の政治的行為を禁止できる(合憲)かどうかを判断するための指標が示されました。


指標3つあります。


まず①目的何のための禁止?)、そして②関連性(禁止で、本当に達成される?)、最後に③利益の均衡(禁止して得られるもの【メリット】と、失ってしまうもの【デメリット】どっちが大きい?)です。


この指標を用いて判断されたのが、当時の判事補(経験10年未満の裁判官)が政治的な集会に参加・発言し、裁判所法52条(国公法102条と同趣旨)違反で起訴された事案です。


判決をざっくりまとめると、①国民の公正な裁判への期待を保護するため()の禁止で、②裁判官の中立・公正性を害する積極的な政治活動が国民の信頼失墜を招くのは明らか(連性)であり、③意見表明の自由が間接的・付随的に制約されるものの、裁判官の独立・中立・公正を確保し裁判に対する国民の信頼を維持する方が重要(益の均衡)という内容でした。


私は語呂合わせで、「公務員の目(標)管理」と覚えました。


も一度言うと、社会保険庁のヒラ公務員はビラを撒いて【国公法・人院規則の罰則規定は合憲だが、そもそも罰則規定を適用するケースに当たらない】と判断されました。一方、郵便局員はポスターを貼り【国公法・人院規則の罰則規定は合憲で、さらにその罰則を適用することも合憲】と判断されました。


…今回も長丁場でした。まとめます。


・基本的人権の適用範囲で問題となったのは、(公務員)(囚人)(外国人)(法人)の4種類

社会保険庁職員に対しても、郵便局員に対しても、判事補に対しても、完全な(政治的信条の)表現の自由は認められなかった

・国家公務員法が禁止した「政治的行為」は、中立性を損なう恐れが観念的なものにとどまらず現実的に起こり得るものとして、実質的に認められるものだとした判例がある(ヒラ公務員が、ビラを撒いた)。

・公務員の政治的行為に対する禁止が合憲かどうかは、①禁止の目的、②政治的行為と禁止目的との関連性、③禁止によるメリット・デメリットの利益の均衡という3指標により検討する必要がある、とした判例がある。


因みに、表現の自由(憲法21条)は『21世紀にもなって、もう表現の自由がどうのこうの言わんでしょ?!』と私は覚えました。


では最後に、条文判例をおさらいして、おしまいです。


《国家公務員法(102条)》

 1 職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

 2 職員は、公選による公職の候補者となることができない。

 3 職員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問、その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。


《日本国憲法(21条1項)》

 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。


《裁判所法(52条)【一部抜粋】》

 裁判官は、在任中、左の行為をすることができない。

 一 国会若しくは地方公共団体の議会の議員となり、又は積極的に政治運動をすること。


《判例: 最判平24.12.7》

●事件名:

国家公務員法違反被告事件

●裁判要旨(抜粋):

一、国公法102条1項の「政治的行為」とは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められる政治的行為をいう。

二、人事院規則に掲げる政治的行為は,それぞれが公務員の職務の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものをいう。

三、国公法110条,102条1項,人事院規則14-7第6項7号,13号による政党機関紙の配布及び政治的目的を有する文書の配布禁止は,憲法21条1項,31条に違反しない。

四、管理職的地位になく,その職務の内容や権限に裁量の余地のない一般職国公員が,職務と全く無関係に,公務員により組織される団体の活動としての性格を有さず,公務員による行為と認識し得る態様によることなく行った本件配布は,公務員の職務の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえず,国公法102条1項,人事院規則14-7第6項7号,13号により禁止された行為に当たらない。


《判例: 最大判昭49.11.6》

●事件名:

国家公務員法違反

●裁判要旨(抜粋):

一、国公法102条1項、人事院規則14-7・5項3号、6項13号による特定政党を支持する政治的目的を有する文書の掲示又は配布の禁止は、憲法21条に違反しない。

(中略)

五、国公法102条1項、人事院規則14-7・5項3号、6項13号の禁止に違反する本件の文書掲示又は配布に罰則を適用することは、たとえその掲示又は配布が、非管理職の現業公務員であって、職務内容が機械的労務の提供にとどまり、勤務時間外に、国の施設利用なく、職務を利用せず又はその公正を害する意図なく、かつ、労働組合活動の一環として行われた場合であつても、憲法21条、31条に違反しない。


《判例: 最大決平10.12.1》

●事件名:

裁判官分限事件の決定に対する即時抗告

●裁判要旨(抜粋):

一、裁判所法52条1号にいう「積極的に政治運動をすること」とは、組織的、計画的又は継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であって裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるものをいい、具体的行為の該当性を判断するに当たっては、行為の内容、行為の行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的な事情のほか、行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決するのが相当である。
二、裁判官が積極的に政治運動をすることを禁止する裁判所法52条1号の規定は、憲法21条1項に違反しない
三、裁判官が、その取扱いが政治的問題となっていた法案を廃案に追い込もうとする運動として開かれた集会において、会場の一般参加者席から、裁判官であることを明らかにした上で発言をした行為は、集会参加者に対し、右法案の廃案を求めることは正当であるという同人の意見を伝えるものというべきであり、目的達成を積極的に支援しこれを推進するものであって、裁判所法52条1号が禁止している「積極的に政治運動をすること」に該当する。
四、裁判官が積極的に政治運動をしたことは、裁判所法49条所定の懲戒事由である職務上の義務違反に該当し、当該行為の内容、その後の態度等にかんがみれば、当該裁判官を戒告することが相当である。


本日は以上です。

いつもご苦労さまですm(_ _)m