憲法総論の後編です。
関連条文は判例と併せ、また最後に読みます。
前回は、憲法3原則のうち「①国民主権(民主)」までやりました。
読んで字の如く国民に主権があると言う意味ですが、主権という言葉は他の幾つかの条文でも使われていて、それらは少し意味が違うので気を付けましょう、という話でした。
今日は「②基本的人権の尊重(ジンソン)」、そして「③平和主義(和主)」までやります。
さて今日はその前に、憲法は何のためにあるのか? という事を考えてみます。
憲法の目的、と言い換えてもイイです。
『…えっと、国民に主権を認めて…』
確かに、それも憲法の大事な役割であり作用です。
しかし目的か?というと、少し違う気もします。
まあ究極の目的としては、第二次世界大戦後にGHQ(連合国軍総司令部)が草案作成に携わっている背景から鑑みるに、恐らく2度と日本に戦争を起こさせないことがそうかも知れませんが…
ズバリ憲法は、国家権力を制限することで、国民に自由を保障する目的で存在します。
そのため、この憲法を上回る法が作られる様なことがあっては、そもそもの意味を成さなくなってしまいます。だから、憲法は国家法体系の中で最高位にあるのです。
憲法98条1項の『この憲法は、国の最高法規であつて…』という部分が正にそれです。
だから、役所で働いている方をはじめ、国務大臣・国会議員・裁判官といった公務員(裁判官って公務員なんだ!)の他、天皇や摂政(せっしょう。主に天皇が未成年時、代わりに国事を務める皇族の役職のこと)にも憲法尊重擁護義務を課し、権力を制限しようとしているんです。(憲法99条)
因みに、4・3段落前に赤太字で書いた順に、これら憲法の性質を制限規範、自由の基礎法、最高法規性と呼んだりします。
では、話を3原則のほうに戻して②基本的人権の尊重(ジンソン)についてです。
憲法は、11条(『…憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利…』の部分)や97条(『…憲法が日本国民に保障する基本的人権は…侵すことのできない永久の権利…』の部分)で基本的人権を保障しています。
憲法において人権は、人として生を受けたことにより初めから持っている権利(他から与えられたものではない固有の権利)であり、人種や性別といった心身の特徴等により認められたり認められなかったりする様な性質ではない権利(普遍的な権利)であるとされています。
また先ほど明文で2度も規定してあった通り、国家権力等により踏みにじられることは認められない権利(不可侵の権利)でもあります。
これらを踏まえ、憲法の保障する基本的人権は、固有性、普遍性、不可侵性の3つを持っていると言われます。(私は、人間固有の人性普遍と覚えました)
そして最後に、③平和主義です。
もしかしたら、憲法でこれが1番有名なんじゃないかな? という気がします。
いわゆる憲法9条です。
1項では『…国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する』として、戦争のみならず、武力行使のみならず、武力による威嚇さえしません、と断言しています。
じゃあ、国際紛争じゃなかった場合どうなるの? って気もしますよね。現9条をそのまま解釈するなら、政治的に国際紛争と認められなかった場合は、武力行使も憲法違反(違憲)ではない、という事になります。
例えば、政府が「これは国家間の争いや対立ではなく、あくまでテロリストグループに対する個別の報復だ」と銘打ってしまえば、自衛隊を使って他国に攻め入る行為も正当化されてしまいます。(違憲ではない、という解釈もしてしまえる)
そう、屁理屈です。でも、法解釈ってそうなんです。時にはヘリクツを生むことがあります。生むのは、どこまで行っても人ですが。
続いて2項。
『…陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない…』とあります。
あれっ? でも日本国内に、米軍基地あって、軍隊が駐留してますよね??
実はこの、条文で「戦力」としている部分が、微妙なんです。
有名な判例をご紹介します。
米軍基地の拡張を決めた国が、そのための測量を強行したところ、これに反対したデモ隊が基地内へ侵入。旧日米安保条約に基づく刑事特別法違反に問われました。
デモ隊は、そもそもこの旧日米安保条約自体が憲法9条2項に違反しているため、刑事特別法も無効だと主張。裁判で争うこととなりました。
1審は在日米軍を戦力と断定し違憲と判決、デモ隊は無罪としましたが、検察側は上告。
そして最高裁は、憲法9条2項が規定した戦力の不保持は、主体的に指揮・管理を行なったいわゆる侵略戦争を引き起こさないためのものであり、自衛権を否定したものではなく、主体的でなく駐留する外国軍隊は「戦力」に該当しない、という認識を示しました。
…と、その一方で、旧安保条約自体が憲法違反かどうかについては、判断を避けました。
以下、判決文から抜粋します。
『…安保条約の如き、主権国としてのわが国の存立の基礎に重大な関係を持つ高度の政治性を有するもの…は、裁判所の司法審査権の範囲外にあると解するを相当とする…』
つまり、本事案につき合憲違憲の判断を司法が行うべきでない、と言ってます。
これを「統治行為論」と呼んだりします。統治行為に関わる問題は、行政・立方と比較し民主性の低い司法が判断すべきでないという論法です。
但し、この最高裁判決にはある条件が付いていました。
『…一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り…』
つまり、統治行為論を採用するに当たり、一見極めて明白に違憲無効だと認められる場合には、司法が今後審査する可能性も留保した、というわけです。
因みに、このデモ隊は差戻し審で有罪となりました。。
…また長くなってしまいました(笑
まとめます。
・憲法の目的は、国家を制限(制限規範)し、国民に自由を与える(自由の基礎法)こと。そのために、国内最高位の法規範(最高法規性)となっている。
・憲法の保障する基本的人権は、固有性・普遍性・不可侵性を有する。(人間固有の、人性普遍)
・在日米軍は、日本が主体的に指揮・管理する自国軍隊ではないため、いわゆる憲法9条に言う「戦力」には該当しないとした最高裁判例がある。
・統治行為に関わる問題につき、法論争が可能であっても敢えて司法判断をしないとする論法を統治行為論と呼ぶ。尚、旧日米安保条約に関する違憲訴訟では『一見極めて明白に違憲無効と認められない限り』という条件付で用いられた。
では最後に、条文と判例を読んでおしまいです。
《日本国憲法(98条1項)》
この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
《同法(99条)》
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
《同法(11条)》
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
《同法(97条)》
この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
《同法(9条)》
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
《判例: 最大判昭34.12.16》
●事件名:
日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反
●裁判要旨(抜粋):
一、跳躍上告において、審理を迅速に終結せしめる見込がついたときは、刑訴35条の特別の事情はなくなったものと認める。
ニ、憲法9条は、敗戦の結果、ポツダム宣言受諾に伴い、日本国民が誤って犯すに至った軍国主義的行動を反省し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないよう決意し、恒久の平和を念願し制定したものであって、憲法の特色である平和主義を具体化したものである。
三、憲法9条2項の戦力不保持規定は、いわゆる戦力を保持し、自ら主体となって、指揮権、管理権を行使することにより、同条1項において永久放棄を定めたいわゆる侵略戦争を引き起こすことのないようにするためである。
四、憲法9条は、主権国として有する固有の自衛権を何ら否定していない。
五、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛措置を執り得ることは、国家固有の権能であって、憲法は何らこれを禁止するものでない。
六、憲法は、自衛措置を限定していないのであって、他国に安全保障を求めることを何ら禁ずるものではない。
七、わが国が主体となって指揮権、管理権を行使し得ない外国軍隊はたとえそれがわが国に駐留するとしても、憲法9条2項の戦力には該当しない。
八、安保条約の如き、主権国としてのわが国の存立の基礎に重大な関係を持つ高度の政治性を有するものが違憲か否かの法的判断は、司法裁判所の審査になじまないものであり、それが一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外にあると解するを相当とする。
九、安保条約が違憲か否かが前提となっている場合においても、これに対する司法裁判所の審査権は前項と同様である。
十、安保条約は、憲法9条、98条および前文の趣旨に反し違憲無効であることが一見極めて明白であるとは認められない。
十一、行政協定は国会の承認を得ていないが違憲無効とは認められない。
今日は以上です。
本日も、大変お疲れ様でした。