憲法が我々国民に認めた権利を、9条〜順にご紹介しています。
次なる登場は13条(幸福追求権)、ここからがいよいよ本番です。
因みに、条文はこちら。
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」
1つの判例は、既に学びました。
刑事収容施設内での喫煙の自由を争った事件ですね。この時は、喫煙の権利が幸福追求権に含まれるかどうかの判断は避けたのでした。
判例もメチャクチャ多いので、いつも通り古い順に紹介して参ります。
(当ブログ、過去最長の記事になります。覚悟はできましたか?笑)
まず昭和44年に出た判決。立命館大学法学部の当時学友会書記長を務めていた学生が、大学の制度変更や憲法改正に反対するデモ行進に参加し、状況視察と採証に訪れ写真撮影を行なった警察官に詰め寄り無視されたとの理由で旗竿で下顎を一突きし公務執行を妨害した事件。
これだけでもかなり乱暴な印象ですが、この学生は更に、京都市のデモ条例は憲法21条および同31条違反、写真撮影は肖像権を保障した(条文にそういった明確な記載はない)同法13条違反かつ、令状主義を規定した同法35条違反と、のべつ幕なし並べ立てました。
判決は、以下の通りでした。
『同条例は、集団行動に必要な公安委員会の許可につき「公衆の生命、 身体、自由又は財産に対して直接の危険を及ぼすと明らかに認められる場合の外はこれを許可しなければならない」として許可を義務付け不許可を厳格に制限しており、また過去の判例に徴しても明らかに21条違反ではない。
また同条例は、取締当局がほしいままに条件を定めることを許しておらず、犯罪の構成要件が規定されていないとか不明確であるということもできず、所論違憲の主張はその前提を欠き、適法な上告理由とならない。(31条違反でもない)
一方、憲法13条の規定は、国民の私生活上の自由が警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができ、その自由の一つとして、承諾なしにみだりに容ぼう等を撮影されない自由を有するというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が正当な理由なく個人の容ぼう等を撮影したとすれば、憲法13条の趣旨に反し許されない(この一文はオビディクですね)。しかし個人の自由も公共の福祉のため相当の制限を受けることは明らかで、警察に与えられた国家作用かつ責務として身体拘束中の被疑者に対し、または現行犯もしくはその直後で証拠保全の必要性・緊急性がある場合、一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって犯罪捜査の必要上写真を撮影するとき、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、憲法13条、35条に違反しないものと解すべきである』
毎度ですが、最後の言い切りがまた何か好きなんです。
『被告人本人および同弁護人のその余の上告趣意は憲法違反をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由にあたらない。よって、同法408条、181条1項本文により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する』
最後にまた纏めますが、
◆ポイントはデモ行進中サツの下顎突いた学生の言い分は全て認められませんでしたが、憲法13条を根拠に【承諾なしにみだりに容ぼう等を撮影されない自由】は認められたという点です。
(因みに、昭和61年オービスによる自動撮影の事件も、本判決を引用し全く同じ結論でした)
お分かりになったと思いますが、「肖像権」という言葉はこの下顎突き学生(代理人である弁護士?)が初めて勝手に使用した造語です。
では2つ目(3つ目?)の判例に参ります。
昭和56年の判決です。会社から解雇された元社員がその地位の確認訴訟を起こしていたところ、会社側の弁護士が間接的に伏見区役所に元社員の前科を照会(前科って、市区町村にも保管されてるんだ!)。区があっさり照会に応じたため、元社員が京都市に対しプライバシー侵害による損害賠償を求めた事件。
そもそも前科あったんかい、という話でもあるんですが…
相手は会社ではありません。あくまで役所を相手取っており、憲法判例として紹介される事件です。
以下、判決文からの抜粋になります。
『前科及び犯罪経歴は人の名誉・信用に直接かかわる事項で、前科等のある者もこれをみだりに公開されない法律上の保護に値する利益を有し、市区町村長が本来選挙資格の調査目的で作成保管する犯罪人名簿に記載された前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもない。
前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得る以外他に立証方法がない場合は、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長はこれに応じ前科等につき回答できるのであり、同様な場合に弁護士法23条の2に基づく照会に応じ報告することも許されないわけではないが、その取扱いには格別の慎重さが要求される。
本件において、照会を必要とする事由として照会申出書に「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」とあったにすぎず、このような場合に市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官数名の補足・反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する』
ちなみに、反対意見あるのに、全員一致…? と最初私は思いましたが、これは「反対意見があるが、他の裁判官は全員一致の意見で」という意味です。
…で、気付きました?
これ、判決文中に憲法のけの字も出て来ません。ほとんどの参考書は、このことに全く触れることなく、しかしさも当然の如く13条関連の判例として紹介しています。(理由はおそらく記憶違いを防ぐためなんですが…)
何を根拠に、国民の有する【前科等をみだりに公開されない利益】が法律上の保護に値する利益と評価されたのか、ここには書かれていません。
日本の判例法の効力は、最高裁大法廷の判決に対してのみ発生すると考えられているので、この時は最高裁が明文での判断を避けたように見えます。(実際、補足意見には「プライバシー」という単語が出て来ていました)
でもそれにしても、ちょっと不親切な文章だなーとは感じます(笑
理解のために有名判例(日本初のプライバシー侵害裁判「宴のあと事件(東京地判昭39.9.28)」)を引用しますと、
『…日本国憲法13条は、すべて国民が個人として尊重されるとともに、個人の幸福追求に関する権利は国政上最大の尊重を必要とする旨を明らかにしている。プライバシーの尊重は、個人の尊厳の確立と、個人の幸福追求権の実現にほかならず、国家は国民の一人が現にプライバシーを侵害され幸福追求の権利を妨げられている場合には、その侵害を排除し損害の填補を受けられるように一切の便宜を提供することを要するものと解すべき…』
という判決文が出て来ます。
つまり、憲法13条が国民個人の尊重や幸福追求権を保障する以上プライバシーは尊重されるべきで、前科等をみだりに公開すること(漫然と照会に応じたこと)は違憲(公権力の違法な行使にあたる)だという論法です。
話が少し逸れましたが、
◆ポイントは前科等をみだりに公開されない利益が、法律上の保護に値する利益だ、と最高裁で認められたという点です。
3つ目(通算4つ目)の判例に参ります。
昭和61年に出た判決です。月刊 北方ジャーナルが、旭川市長を11年務め北海道知事選を控えた被告の名誉を毀損する記事を掲載・発売しようとしたため、被告である道知事候補の申立てにより裁判所が即日の仮差止め(行政法上の制度)を行ったところ、出版社が【差止め(裁判所)に対し】表現の自由の侵害および売上の損害賠償請求を訴えた事件。
裁判所はまず、
「憲法13条により、人格権としての『名誉権』が認められている」とした上で、
「名誉は生命・身体とともに極めて重大な保護法益であり、人格権としての名誉権は物権と同様排他性を有する権利というべきで、人の品性・徳行・名声・信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害された者は、損害賠償請求権や名誉回復のための処分を求めることができるほか、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である」としました。
そして、
「言論・出版等の表現行為により名誉侵害を来す場合、表現の自由との調整を要し憲法上慎重な考慮が必要である。
とりわけ公共的事項に関する表現の自由は特に重要な権利として尊重されなければならず、憲法21条1項の規定はその核心においてかかる趣旨を含むものと解されるが、あらゆる表現の自由を無制限に保障しているものではなく、他人の名誉を害する表現は表現の自由の濫用でこれを規制することを妨げない。
刑事上及び民事上の名誉毀損に当たる行為についても、当該行為が公共の利害に関する事実にかかり、その目的が専ら公益を図るものである場合には、当該事実が真実であることの証明があれば違法性がなく、また真実であることの証明がなくても行為者がそれを真実であると誤信したことについて相当の理由があるときは故意又は過失がなく、これにより人格権としての個人の名誉の保護と表現の自由の保障との調和が図られている」としています。
…と、ここまでが本事件の判決を導くための一般論としての展開で、結論は、
「…ことさらに下品で侮辱的な言辞による人身攻撃等を多分に含み、到底それが専ら公益を図る目的のために作成されたものということはできず、かつ、真実性に欠けることが仮処分当時においても明らかであり、本件雑誌の予定発行部数や、道知事選を2ヶ月足らず後に控えた事情をかんがみると、本件雑誌の発行により事後的には回復しがたい重大な損失を受ける虞(おそれ)があったということができ、本件仮処分は、差止請求権の存否にかかわる実体面において憲法上の要請をみたすものであったとともに、また手続面においても憲法上の要請に欠けるところはなく、本件仮処分に所論違憲の廉(かど)はなく、右違憲を前提とする本件仮処分申請の違憲ないし違法の主張は、前提を欠く」として、出版社の上告を退けました。
◆ポイントは憲法13条を根拠とした「人格権としての名誉権」が最高裁にて認められたこと、そしてその名誉権と21条が衝突する場合は表現行為が公共の利害にかかり(被上告人が公務員)かつ専ら公益目的なら表現の自由が優先されるケースがあるものの今回は明らか公益目的でなく下品で侮辱的な人身攻撃の言葉ばかりだったため、出版社側を権力者と捉え国民である道知事候補の名誉権を優先させた、という点です。
間違ってはならないのは、この裁判で争ったのは出版社(私人)と裁判所(国家による作用の一である司法)であり、私人間の事件ではなかったので憲法の私人間適用問題は介入し得ない、ということです。
因みに北方ジャーナル事件は、後(表現の自由)でまた登場しますので…お楽しみに(笑
4つ目(計5コ目)の判例にいきます。
平成6年に出た判決です。
時は昭和39年まで遡り真夏の深夜、当時まだアメリカ統治下にあった沖縄・宜野湾市で米兵1人が死亡する傷害致死事件が発生。相手方であった日本人ら4人は有罪となったもののその後刑期を終え、心を入れ換えた1人が沖縄を出て上京、バス運転手として働きながら結婚もし、しかし会社にも妻にも前科を秘匿したまま新たな人生を歩んでいたところ、かつての事件を実名暴露したノンフィクション小説が刊行され売上を伸ばし有名賞まで受賞。精神的苦痛を理由に慰謝料を請求した、という事件。
あらすじだけで長いですね(笑。
この判決文の中にも、憲法13条の引用は全く出て来ません。が、
『被疑者とされ、さらには被告人として公訴され有罪判決を受け、服役したという事実は、その者の名誉あるいは信用に直接かかわる事項であり、その者は、みだりに前科等にかかわる事実を公表されないことにつき法的保護に値する利益を有するものというべきである(昭和56年最高裁判決【伏見区漫然照会の判例】参照)。
この理は、右の前科等にかかわる事実の公表が公的機関によるもの(以前は、伏見区役所による漫然とした照会)であっても、私人又は私的団体によるもの(今回は、小説家という私人による著作)であっても変わるものではない。
そして、その者が有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待され、その者は前科等にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有するというべきである』とし、
過去の判例から、やはり人格権としての名誉権を前提とした論理を展開しました。
一方で、
『もっとも、事件それ自体を公表することに歴史的又は社会的な意義が認められるような場合は、事件当事者の実名を明らかにすることが許されないとはいえず、その者の社会的活動の性質あるいは影響力の程度によっては批評の一資料として、前科等の公表を受忍しなければならない場合もあるといわなければならない。
まして、その者が公職者あるいはその候補者などであれば、その者が公職にあることの適否などの判断の一資料として前科等にかかわる事実が公表されたときは、これを違法というべきものではない』
とも論じた上、
『要するに、前科等を公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時に、その公表が許されるべき場合もあるため、前科等の実名使用での著作物による公表が不法行為を構成するか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、その結果、前科等を公表されない法的利益が優越する場合は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない』
としました。
最後に結論として、
『以上を総合して考慮すれば、本件著作が刊行された当時、被上告人は、その前科にかかわる事実を公表されないことにつき法的保護に値する利益を有していた ところ、本件著作において実名を使用し事実を公表したことを正当とするまでの理由はないといわなければならない。そして、上告人が本件著作で被上告人の実名を使用すれば、その前科にかかる事実を公表する結果になることは必至であり、実名使用の是非を上告人が判断し得なかったものとは解されず、上告人は、被上告人に対する不法行為責任を免れないものというべきである』
としました。
因みに、更生し人生をやり直したこのバス運転手は、仕事をクビにならず、また離婚となることもなかったようです。さらに余談ですが、現在刊行されているこの小説は、仮名掲載されています。めでたしめでたし。
◆本事件のポイントは、「前科等をみだりに公表されない利益が法的保護に値する利益だ」とする所から一歩進んで、それを公的機関に対しても、私人に対しても変わらず法的保護の対象として主張することが出来ると最高裁で認められたこと。
そして、前科等の公表が許される場合の基準が一定程度示されたことです。
一応、念を押しておきますが、ここまで判例を見てきても解る通り、【前科等をみだりに公表されない】というものを最高裁は「権利」とまで表現することを避け敢えて「利益」で「法律上の保護に値する」と言うに留め、13条の引用も避けている部分は押さえておいて下さい。
なので、私人間の争いであるにも関わらず憲法の間接適用に関し触れられていないのだと、私は理解してます。
さあ、5(6)コ目の判例、平成7年の判決。
公囚外法【外】でも少し出てきた、指紋押捺制度の再登場です。
昭和56年当時、神戸市に住んでいた現ハワイ在住のアメリカ人の方が、現在は廃止されている外国人登録法に義務付けられた指紋押捺という制度に従わなかったため起訴された事件。
被告人である現・ハワイアンの主張は「指紋押捺制度は、みだりに指紋を採られない権利を保障する(そのような明文規定はない)憲法13条に違反する」というもの。
ここで敢えて先に余談を入れますが、特定条件該当者を除きほぼ全ての外国人は日本入国の際、現在でも指紋の提出義務があります。(過去に在日外国人による反対運動が根強く2000年に一旦廃止されましたが、その直後アメリカ2001年の911を受け改正された出入国管理法を根拠とし、2004年「指紋認証制度」として事実上復活しています)
で、判決はどうなったかと言うと、
『指先の紋様それ自体は、個人の私生活や人格・思想・信条・良心等個人の内心に関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシー(あ!最高裁が、判決理由の本意見内で初めて【プライバシー】という単語を使った!)が侵害される危険性があり、国民の私生活上の自由と密接な関連をもつものと考えられる。
憲法13条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するというべきであり、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反して許されず、また、右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶと解される』
とした一方で、
『しかしながら、右の自由も、国家権力の行使に対し無制限に保護されるものではなく、公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受けることは憲法13条に定められている。
指紋押捺制度についてみると、立法目的は十分な合理性と必要性が肯定でき、加えて精神的・肉体的に過度の苦痛を伴うものとまではいえず、方法としても一般的に許容される限度を超えない相当なものであったと認められ、憲法13条に違反しないことは過去の判例からも明らかであり所論は理由がない』
とし、
現ハワイアンの主張は認められませんでした。
◆本事案のポイントは、みだりに容ぼう等を撮影されない自由、みだりに前科等を公表されない利益に加え、みだりに指紋押捺を強制されない自由が最高裁で認められたという点と、しかし結論として公共の福祉のためその自由が制約を受けたという点です。
…ヘバって来てませんか?大丈夫ですか??笑
では、次に参ります。平成12年の判決。
悪性の肝臓血管腫を患った信教上輸血できないママが、輸血ナシ手術で有名医のいる病院に転院し、パパムスコ共々「輸血ナシで死んでも訴えません」と誓約の上手術を受けた所、病院の方針という理由で事前通知なく輸血され、助けてもらったものの訴えた事件。
判決は、
『患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。
(輸血ナシ手術)の期待の下での転院と知っていた有名医らは、病院の方針を説明し本件手術を受けるか否か意思決定にゆだねるべきであったと解するのが相当で、右説明を怠り意思決定をする権利を奪ったものといわざるを得ず、同人の人格権を侵害したものとして被った精神的苦痛を慰謝すべき責任を負うものというべきである。そしてまた病院も、有名医らの使用者として民法715条に基づく不法行為責任を負うものといわなければならない』
とし全面的に、信教上輸血できないママ(+パパムスコ)の勝訴となりました。
で、またコレ「憲法」の文言が出て来ません。(…ので、やはり間接適用説の出番はありません)
◆医療行為の拒否という意思決定の権利が、人格権の一つとしてあくまで「尊重されなければならない」に留められた部分がポイントですね。
因みに手術の5年後、ママは亡くなりました。(なんだか後味の悪い判例でした…)
さあ!まだまだいきます。平成15年ホワイトデーに出た判決。
連続殺人犯として刑事裁判中の当時少年だった被告人が、週刊文春に生い立ちや裁判での言動を類似の仮名でスッパ抜かれ、名誉毀損とプライバシー侵害を受けたとして不法行為に基づく損害賠償を求めた事件です。
判文は、
『本件記事に記載された犯人情報及び履歴情報は,いずれも被上告人の名誉を毀損する情報であり,また,他人にみだりに知られたくない被上告人のプライバシーに属する情報であるというべきである。
そして,被上告人と面識があり,又は犯人情報あるいは被上告人の履歴情報を知る者は,その知識を手がかりに本件記事が被上告人に関する記事であると推知が可能であり,本件記事を読んで初めて,被上告人についてのそれまで知っていた以上の情報を知った者がいた可能性も否定できない。 したがって,上告人の本件記事の掲載行為は,被上告人の名誉を毀損し,プライバシーを侵害するものであるとした原審の判断は,その限りにおいて是認できる』
とした上で、
『なお,少年法61条に違反する推知報道かどうかは,その記事等により不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知できるかどうかを基準にして判断すべきところ,被上告人と面識等のない不特定多数の一般人が,本件記事により当該事件の本人であることを推知できるとはいえない。したがって,本件記事は少年法61条の規定に違反するものではない』
としました。
さらに、
『記事掲載による不法行為の成立は,被侵害利益ごとに違法性阻却事由の有無等を審理し,個別具体的に判断すべきものである。
名誉毀損は,その行為が ①公共の利害に関する事実に係り,その目的が ②専ら公益を図るものである場合において,摘示された事実が ③その重要な部分において真実であることの証明があるとき,又は真実であることの証明がなくても行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるとき,不法行為は成立しない。(違法性は阻却される … このワンセンテンスは刑法の名誉毀損罪の成立要件の話ですね)
プライバシー侵害は,その事実を公表されない法的利益と公表する理由を比較衡量し,前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するから,週刊誌掲載当時の ①被上告人の年齢や社会的地位, ②犯罪行為の内容, ③公表によるプライバシー情報の伝達範囲と被る具体的被害の程度, ④本件記事の目的や意義, ⑤公表時の社会的状況, ⑥公表の必要性 など,諸事情を個別具体的に審理し,これらを比較衡量しての判断が必要である。
そうすると,本件記事が少年法61条に違反することを前提に「同条によって保護されるべき少年の権利ないし法的利益よりも,明らかに社会的利益を擁護する要請が強く優先されるべきであるなど特段の事情が存する場合に限って違法性が阻却されると解すべきだが,本件についてはこの特段の事情を認めることはできない」として,前記指摘の個別具体的な事情を何ら審理判断することなく,上告人の不法行為責任を肯定した原審の判断には審理不尽の結果,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があり,原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,前記部分につき本件を原審に差し戻す』
と結論付けました。
まとめると、
◆名誉が毀損されプライバシーが侵害されている事は間違いないが、少年法61条(推知報道の禁止)違反とまでは言えず、また損害賠償を評価すべく民法上の不法行為と認定できる要件につき審理不尽のため原審へ差戻す、ということです。
で、この事件の判文では「憲法」というキーワードが以下の文章で使われています。
『…少年法61条は,少年事件情報の中の加害少年本人を推知させる事項についての報道を禁止する規定であるが,これは憲法で保障される少年の成長発達過程において健全に成長するための権利の保護とともに…』
また、初めて聞く権利が出てきました。
これも、この判文だけでは憲法のどの条文を根拠にこの権利が保障されているかの記載はありませんが、学説上、これは成長発達権と呼ばれ、憲法13条を根拠に保障されている権利と考えられています。
この成長発達権を尊重するため、少年法61条によって推知報道を禁じている、という論理で学説上は落ち着いているようです。
次は同じく平成15年の、9月にあった判決。
事前に参加者名簿を警視庁へ提出の上、早稲田大学が開いた中国の国家主席を招いた講演の最中、学生が「核軍拡反対!」などと叫び建造物侵入と威力業務妨害で現行犯逮捕、大学からけん責処分も受け、これを不服として無断の名簿提出をプライバシー侵害、処分の無効確認と損害賠償、さらに謝罪文の掲示まで求めた事件。
さて最高裁の判文は、以下のように述べました。
『本件個人情報は,大学が個人識別等を行うための単純な情報であり秘匿されるべき必要性が必ずしも高くないが,本人が「自己が欲しない他者にみだりに開示されたくない」と考えるのは自然なことでその期待は保護されるべきものであり,プライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。
このようなプライバシーに係る情報は取扱い方により個人の人格的な権利利益を損なうおそれがあり,慎重に取り扱われる必要がある。
同大学が本件個人情報の開示につきあらかじめ承諾を求めることは容易であり、困難であった特別の事情はうかがわれず,無断で本件個人情報を警察に開示した同大学の行為はプライバシーに係る情報の適切な管理への合理的な期待を裏切るものであり,上告人らの プライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するというべきである』とし、
最後に、
『原判決中、プライバシーの侵害を理由とする損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない(原審は、個人情報の開示で具体的な不利益を被ったと言えない、と評決していた)。
そして,同部分について更に審理判断させる必要があるから,本件を原審に差し戻す』
としました。
いつもながら、憲法というキーワードはありません。
が、『プライバシーに係る情報の取扱い如何によって損なうおそれがある』とされた【個人の人格的な権利・利益】というのが、学説上は憲法13条を根拠に認められると解されています。
なので、
◆『プライバシーに係る情報は法的保護の対象となるべき』と最高裁で判示された、という所がポイントですね。
…あと判例、何個でしょう?笑
あと2つです!
平成17年に出た、最高裁判決。
和歌山で起きたヒ素混入カレー殺人事件(憶えのある方もおられるのではないでしょうか)で刑事裁判中の当時被疑者の姿態を、週刊誌カメラマンが無許可でスッパ抜き、肖像権の侵害を理由に損害賠償を求め訴えられた裁判。
週刊誌側は引き下がらず、写真掲載し民事訴訟を提起されたわずか3ヶ月後に「これならどうですか?」と今度はイラスト掲載で挑発。これも訴えられ併合訴訟となり、全面的に争いました。
さあ、ヒ素カレー殺人犯はどうなったのでしょう?
最高裁は、週刊誌側の写真撮影・掲載による損害賠償責任は肯定した上で、
『人は,自己の容ぼう等をみだりに撮影されない法律上保護されるべき人格的利益を有する(立命大の下顎突き学生の判例!)が,撮影が不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所 ,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかを判断し決すべきである。
また人は,撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,撮影が違法と評価される場合,それを公表する行為は被撮影者の人格的利益を侵害し違法性を有する。
本件写真は社会の耳目を集めた刑事事件被疑者の動静の報道目的で撮影されたものだが,裁判所の許可なく小型カメラで隠し撮りするなど,その撮影の態様は相当なものとはいえない。また,腰縄を付けられた様子をあえて撮影することの必要性も認め難い。法廷は傍聴人に公開された場所であったとはいえ,被上告人は被疑者として出頭し在廷しており,写真撮影の予想の下に任意に公衆の前に姿を現したものではない。
以上を総合考慮すると,本件の撮影行為は社会生活上受忍すべき限度を超え人格的利益を侵害するものであり,不法行為法上違法であるとの評価を免れない。
違法撮影の本件写真を週刊誌に掲載し公表する行為も,人格的利益を侵害し違法性を有するというべきである』
としました。
さらに、
『人は,自己を描写したイラスト画をみだりに公表されない人格的利益を有すると解するのが相当であるが,写真と比べイラスト画は作者の主観や技術が反映され,それを前提とした受け取り方をされるものであり,その公表行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,写真とは異なるイラスト画の上記特質が参酌されなければならない。
本件についてみると,現在の我が国において一般に法廷内の被告人の動静を報道するため容ぼう等をイラスト描写・掲載することは社会的に是認された行為であると解するのが相当であり,社会生活上受忍すべき限度を超え被上告人の人格的利益を侵害するものとはいえないというべきである。したがって,イラスト画の掲載・公表行為は不法行為法上違法であると評価することはできない。
しかし,被上告人が手錠・腰縄により身体拘束を受けた状態のイラスト画を公表する行為は,被上告人を侮辱し,名誉感情を侵害するものというべきで,社会生活上受忍すべき限度を超え被上告人の人格的利益を 侵害し不法行為法上違法と評価すべきである。
これと異なり,イラスト画2点を公表したことをも違法であるとし上告人らの損害賠償責任を認めた原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由がある。以上によれば,原判決主文第1項(1)は破棄を免れず,被上告人の被った損害について更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すこととし,上告会社及び上告人A2のその余の上告は理由がなく,これを棄却する』
と結論づけました。
ポイントは、
◆【みだりに容ぼう等を撮影されない】【撮影写真をみだりに公表されない】さらに【自己を描写したイラスト画をみだりに公表されない】人格的利益を有する、と最高裁で認められたこと。
但し、今回の事件では撮影の態様が悪く(無許可の隠し撮り)、必要性も低い写真(手錠・腰縄)だったため社会生活上受忍すべき限度を超えた人格的利益の侵害で不法行為法上違法と評価された、という事です。
これはイラスト画であっても同様で、侮辱や名誉感情の侵害とみられる程の描写は、同じく社受べき限度超えの人格侵害で不法行為(長いので略してますw)、という事ですね。
これも毎度、「憲法」のけの字も登場しませんが、言わずもがな法的に保護すべきとされている人格的利益が憲法13条を根拠とした利益と考えられているため、憲法判例として講学上扱われる判例です。
あと、やはり最高裁は「肖像権」という造語は使用しませんでしたね(笑
…さあ、遂にラストの判例です!!
平成20年に判決の出た、住民基本台帳システムで個人情報を管理されるのは憲法13条の保障したプライバシー権その他の人格権を侵害するとして、人格権に基づく妨害排除請求権として住民票コードの削除を国民側が求めた事件。
(何か、被った実害があったんでしょうか?)
原審は、住民票コードの削除請求を認容。行政側が上告し、最高裁で争うことになりました。
最高裁は、以下のように結審しました。
『憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているもので,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有すると解される(立命大の下顎突き学生の判例が引用されています…拡大解釈でしょうか?)。
しかし、住基ネットで管理される本人確認情報は①氏名②生年月日③性別④住所に,住民票コードと変更情報を加えたものにすぎず,上記4情報については人が社会生活を営む上で一定範囲の他者には当然開示が予定されている個人識別情報であり,変更情報も含め個人の内面に関わる秘匿性の高い情報とはいえず,また住基ネット導入前から住民票の記載事項として,住民基本台帳を保管する各市町村において管理されてきたものである。
これら本人確認情報は法令等の根拠に基づき,住民サービスの向上及び行政事務の効率化という正当な行政目的の範囲内で行われており,技術上又は法制度上の不備により第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。
住基法30条の34等の本人確認情報の保護規定は,住基ネットの管理情報への保護措置を講ずるため特に設けられた規定であり,行政個人情報保護法の規定に優先して適用されると解すべきで,原審の判断は前提を誤る。
またシステム上,行政サービスの提供履歴が行政機関PCに残る仕組みになっているというような事情もうかがわれず,そうすると,住基ネットにより住民の本人確認情報を管理・利用等する行為は,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできず,当該個人がこれに同意していないとしても,憲法13条により保障された上記の自由を侵害するものではないと解するのが相当である』
…と、しました!
やはり、vs 公的機関の裁判だと、あっさり憲法というキーワードが登場しますね(笑
おしまいです!!!
…大変ご苦労様でした o(_ _*
ざっくりと要点だけおさらいし、終わりにしましょう。
① 喫煙の権利は、憲法13条により保障されるかの判断は避けられ、いつ如何なる時も認められる訳ではない、という評価に留められた。(これは前々回の復習です)
② 立命大の下顎突き学生事件【私vs公】にて、承諾なしにみだりに容ぼう等を撮影されない自由が憲法13条を根拠に認められた。(同事件では、証拠保全の必要性・緊急性があり、一般的に許容される限度をこえない相当な方法だったと評価され、合憲とされた)
※オービス事件も、コレ↑と全く同結論
③ 伏見区の漫然照会事件で前科者と京都市が争った事件【私vs公】にて、前科等をみだりに公開されない利益が、法律上の保護に値する利益と認められた。(憲法の明確な引用は無かったが、講学上13条が根拠と考えられている)
④ 月刊誌の道知事候補に対する名誉毀損記事の掲載差止を巡り裁判所が訴えられた事件【私vs公】にて、人格権としての名誉権が憲法13条を根拠に認められた。(21条も尊重されなければならないが、本件では専ら公益目的とは到底いえない下品な表現ばかりで事後に回復しがたい重大な損失を受けるおそれがあると評価され、名誉権が優先された)
⑤ 米兵殺害で刑期を終え上京し結婚したバス運転手がノンフィクション小説の暴露で精神的損害を訴えた事件【私vs私】にて、みだりに前科等を公表されない利益は私人に対しても侵害を許さず、更生を妨げられない利益も有するとされた。(伏見区漫然照会と同じく、憲法からの明文根拠はナシ)
※もっとも、歴史的・社会的意義や影響力の程度、まして公職にある場合など公表を受忍せねばならないケースもあるとオビディクした上で、本件の実名公表を正当とするまでの理由はないとされた
⑥ 当時神戸市在住のハワイアンが指紋押捺を拒否し起訴されたが13条違反だと反論した事件【私vs公】にて、みだりに指紋押捺を強制されない自由が13条を根拠に認められた。(…ものの、条文の通り公共の福祉のため制限は受け得るとオビディクった上で、同制度は合理性・必要性を有し、肉体的・精神的に過度の苦痛も伴わず、一般的な許容限度を超えた方法でもなく相当で合憲と評価された)
※『指紋を悪用すればプライバシー侵害の危険がある』と、最高裁が判文中で初めて「プライバシー」という単語を使用した(権利云々については言及していない!)
⑦ 信教上輸血できないママ(+パパムスコ)が医師の説明不足で輸血され後死亡し人格権侵害で争った事件【私vs私】にて、医療行為の拒否という明確な意思決定をする権利が人格権の一として公認された。(伏見区漫然照会・ノンフィク小説暴露BDと同様、憲法の明文引用ナシ)
⑧ 当時少年だった連続殺人犯の被告人が経歴暴露した週刊誌を名誉毀損とプラバ侵害で訴えた事件【私vs私】にて、成長発達権が(伏漫照・ノン小BD・輸血×マパム同様、憲法条文の明文引用はないものの)保障されていると公言された。(但し少年法の推知報道には当たらず、差戻しとなった)
⑨ 中国国家主席の講演中に威力業務妨害等で現行犯逮捕された早大生がプラバ侵害等で逆告訴した事件【私vs私】にて、氏名や学籍番号といった単純な個人情報であってもプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるとされた。(伏漫照・ノン小BD・輸血マパム・週刊少年連続殺と同様憲法引用ナシ。差戻しとなった)
⑩ 和歌山のヒ素カレー殺人の死刑囚を法廷にて無断で隠し撮りした週刊誌が訴えられた事件【私vs私】にて、写真も、描写されたイラスト画さえもみだりに公表されない人格的利益を有すると公認された。(但し、裁判報道でのイラスト画の使用は社会上是認されているとした上で、今回は撮影の態様が悪く必要性の低い姿態の公表につき侮辱また名誉感情の侵害であり社受べき限度超えで不法行為法上違法、と評価された)
※伏漫照・ノン小BD・輸血マパム・週刊少年連続殺・威力早大生と同様、憲法明文引用ナシ
⑪ 住民基本台帳システムでの個人情報管理につき人格権侵害等で訴えた事件【私vs公】にて、個人情報をみだりに第三者に開示・公表されない自由が13条を根拠に認められた。(が、業務効率化やサービス向上のため限られた秘匿性の高くない個人情報を住基ネットで管理する行為はみだりに第三者に開示・公表するものと言えず合憲とされた)
あぁ… まとめすら長い…
ここまで判例が多いのは、すなわち憲法13条の射程がそれだけ広い、ということです。
条文の内容が漠然としていて、あらゆる権利の根拠となり得るということです。今後、また13条を根拠に新たな自由や利益が認められることもあるでしょう。
本日は、これで以上となります。
毎日、お疲れ様です m(_ _)m