「苦もあり楽もあり、それが人生です」


 今日も今日とて教祖さまは当たり前の話をさもありがたい説法のように話す。


 教祖さまの講演会はいつも満員。どこの会場も切符は完売。


「神はあなたとともにあります。神はあなたのなかにいます。神に祈りましょう。さすれば、あなたの一生は悔やむことなき道をすすむでしょう」


 教祖さまの話はどんなことにでも通じるようにできている。


 一生を悔やむか悔やまないかは本人の心次第。


 大金持ちで会社の社長になっても悔やむひとはいる。


 ホームレスでその日暮らしでも楽しでいるひともいる。


「これで終わります。みなさん、ありがとうございました」


 万来の拍手のなか、教祖さまが楽屋にかえって行く。


 聴衆もみな、三々五々会場を後にする。


 

【教祖さまの楽屋】


「今日のあがりは?」


 教祖さまは椅子にふんぞりかえり、マネージャーに訊いた。


「切符はすべて完売ですし、教祖の本も完売いたしました」


「そう。それはよかった。しかし、よく買うねぇ、あんないい加減な本。日頃、誰でも思ってる当たり前のことなのに」


「それも“教祖さま”の名前があればこそです」


「そうかい。やはり“教祖”って名前にはひとをひきつける力があるんだねえ」


「あ! それから聴衆のひとりがこんなものを。ぜひ寄付したいということですが」


 マネージャーはテーブルの上に紙袋をおいた。


 教祖さまはそれを手に取り、中身を確認した。


「世の中、奇特なひともいるねえ」


 そう言うと、教祖さまは紙袋の一万円札の束を取り出した。


「寄付なんてよくしますね。よほどお金に余裕があるのか。それとも神を信じれば、こそですかね」


 マネージャーはうすらわらいをうかべた。


「神ねえ。そんなものがいるなら、世の中苦しんだりしないよ」


 教祖とマネージャーは声をあげて笑った。


「あ! でも、いるなあ、わたしには。信者というお金をもってきてくれる神が」


 教祖の言葉に二人はよりいっそう声をあげて笑った。


 それから教祖は札束を数えはじめた。




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