楽園アパートに向かうハンス
人家も通行人も、何もない坂道を上っていると、坂の上からタクシーが下りてきました。
そのタクシー、ハンスをみかけるとUターンしてきてハンスを乗せてくれました。
ソックァン)大変でしょう。この坂、きついんですよ。お乗りください。お送りしますよ。
ソックァン)楽園アパートに行かれるんでしょう。私もそこの住人です。
ハンス)俺がそこへ行くって、どうしてわかったんだ。クム社長の使いか?
ソックァン)ははは、あそこしかないんですよ、この道の先には。引っ越してこられたようでもないし、何号室にご用ですか?
ハンス)言ったところで、知らないでしょう。
ソックァン)知ってますとも。ご近所さんなんだから。 この坂はきついですけど、空気のいいところですよ。PM2.5もない。
はたして、坂を上り切ったところに楽園アパートはありましたが、、、人が住んでいるとは思えないほど荒れています。
ハンスは弟からのメッセージを確認します。
―カギは郵便受けにある。
怪しげな目でハンスを見送るソックァン。
郵便受けの中からカギを取り、アパートの中に入っていくと、いきなりチュンベが現れます。
ハンス)うわっ、びっくりした!
チュンベ)へっへ、どなたさんですかな?
チュンベ)初めて会った人は私を盲人だと思いますが、全く見えないわけではないんですよ。 こうして、じぃっと見れば、なんだって見えるんです。 505号室の住人のお兄さんですか。
チュンベの話を聞きながら後について階段を上っていると、ソンニョに手をつかまれます。
ハンス)うわっ!なんだよいきなり。
ソンニョ)やっぱお前だ。愚かなお前たちには、あのお方は見えない。永遠に苦痛の中で暮らすんだ。チッチ。可哀想な奴。永遠に地獄の中で暮らすんだ。耳を傾けろ。耳があっても聞こえず、目があっても見えない。可哀想に。可哀想に。
チュンベ)303号の人だが、ずいぶん悪いんだ。がんの末期で、正気じゃない。最近は特にひどいな。そろそろ死ぬ時が来たようだ。
ハンス)みなさんずいぶんと個性的ですね。澄んだ空気のせいですかね。
チュンベ)さあ、ここですよ、505号。でも、最近顔を見てない気がするなぁ。だからどこか旅行にでも行ってるのかと思っていたよ。弟さんとは仲がいいのかい。
しゃべり続けるチュンベを無視してハンスは部屋に入り、勢いよくドアを閉めてしまいました。
チュンベ)わからないことがあったら私に聞きにきなさい。405号室。真下の部屋だよ。
チュンベが帰ろうとすると、504号室から女性が出てきます。
チュンベ)ナヨン、久しぶりだね。今日はまた一段ときれいじゃないか。昼飯は何を食った?
ナヨンは何も答えず行ってしまいます。
チュンベ)へっ、二人とも愛想のない奴らだ。
ハンチョルの部屋には埃が積もっていました。
台所のものは・・・
ハンス)全部腐ってやがる。
お酒をみつけたハンスは・・・ いただきます。
ドアの外で物音がしました。
ハンス)じいさん、まだ帰らずにいるのか? チップでもせびるつもりか。
ドアの覗き窓から外を除くと、ソックァン、チュンベ、ソンニョの三人が部屋の中を覗いていてびっくり!
心臓が止まるほど驚いたハンスが、怒ってドアの外に飛び出すと、
あら不思議、廊下には誰もいません。
そろって見えたはずの3人は、それぞれ違う階にいるのが見えました。
弟ハンチョルに電話をかけますが、電源が切れていてつながりません。
仕方なく、メッセージを送るハンス。
―どこにいる? どうして帰ってこない?
待ちくたびれたハンスは、部屋の外に出てみました。
廊下に出たとたん、スマホが振動し、ハンチョルからかと期待したハンスですが、
電話はクム社長からでした。。。
そこへ、びしょ濡れになったナヨンが飛び出してきたのです!
思い切り不自然な態度で、ハンスを、誘惑するような目で見るナヨン。。。