56.ミンギョンの家の前 (夕方)
形ばかりの縁側に、大きな買い物かご2つを置いて座っているキョンサンデク。蒸し暑さに汗を拭いながら団扇で風を送っている。
少しして、人の気配がしたと思うとミンギョンとソンイが入ってくる。
キョンサンデク アイゴー、2回待っただけやのに暑さで死にそうや!
(すみません、2回だけ? のところ、ハギにはわかりません。。。)
ミンギョン あら、おばさん... こんなとこまで何しに...
キョンサンデク 市場に行った帰りに寄ったんや。
ミンギョン ええっ、暑いのに... 冷たい水でも持ってくるわね。
台所から茶碗に冷水を汲んできてキョンサンデクに差し出すソンイ。
キョンサンデク まぁまぁ、ええ子やなぁ。ソンイ、お母さんよりあんたがえらい!
ミンギョンはキョンサンデクの横に腰かける。ゴクリと水を一気に飲み干すキョンサンデク。
キョンサンデク ああ~ 渇きもとれたことやし... 暗ろなる前にさっさと帰らんとなぁ。
ミンギョン もう、ですか?
キョンサンデク (立ち上がりざま) なんや、泊まっていこか?
キョンサンデクが買い物かごをひとつだけ持って立ち上がる。
置かれたままのかごを取って後を追うミンギョン。
ミンギョン おばさん、これ。
キョンサンデク それはあんたのや。
ミンギョン え?
キョンサンデク 奥様がな、これから市場へ行くときはあんたとこの分も買うたり言わはったんや。
ミンギョン ...
キョンサンデク 肉と、魚もちょっと買うたしな。子供らにもしっかり食べさしたりや。
ミンギョン おおきに.. どないしよ...
キョンサンデク 奥様みたいな人、どこ探しても他にはおらへんで... あんたは福がある。
ミンギョン (自然とうつむいてしまう) ええ.. わかってます。
キョンサンデク ほな、行くわ。さいなら。
キョンサンデクを門まで出て見送るミンギョン。
さっさと中に入れと手で合図するキョンサンデク。
ミンギョン さいなら...
ミンギョンは茫然と、ソンイと並んで立ったまま遠ざかって行くキョンサンデクを見ている。
57.アトリエ (昼)
細かな作業をしているジュングの指先と真剣な目つき。
ミンギョンがそっと覗きこんでジュングを見るが、作業に没頭しているジュングの表情。
ミンギョンの腰と塑像の腰を見比べるジュング、ミンギョンの傍までやってくる。
慌てて首を戻し、元どおりの方向を見るミンギョンの顔。
ミンギョンの腰の筋肉に触れるジュング。ジュングの指の感覚を確かめるように目をつむるミンギョン。
ジュングはミンギョンの身体のそこここに触れる。
ジュングが首を傾げながら元の場所に戻る。
こっそりと首を回してジュングを見るミンギョン。ジュングに気を取られて少し身体まで動いてしまうと
ジュング 違う...
その言葉に驚いて、姿勢を整えるミンギョンに
ジュング 疲れたかい?
ミンギョン まさか...
掌とヘラを使って精巧な作業をするジュング。
ジュング さあ! 体を3時の方向に回して... 姿勢はそのままで。
ミンギョン、ジュングに向かって立つ。ジュングを見るミンギョンの視線。
ジュング そうだ! 脚に力を込めてごらん。
ポーズを取って立つミンギョン。堂々とした表情だ。
ミンギョンの骨盤と腹部に表れる滑らかな筋肉のライン。
ジュング そうだ。そのとおり。そう、お尻にも一度力を入れてごらん。もっと... もっと... もっと...!
このとき、ミンギョンは思わずオナラをしてしまう。
ジュングがはっと目を上げミンギョンの顔を見る。
赤くなって両手で顔を隠すミンギョン。
しばらくして奥歯をかみしめもう一度ポーズを取り直すミンギョン。薄目を開けて見る。
目が合うと首をそらしてしまうミンギョン。そんなミンギョンを見てジュング、
ジュング 違うだろう。どうして首をそらす...
ミンギョン、首の位置を戻すが恥ずかしさに顔が赤くなる...
ジュングの顔色を窺って首を回すミンギョン。
ジュング そうだ。目は... 閉じていてもいいよ。
その言葉に、ぎゅっと目を閉じるミンギョン。自分のしたことに思わず笑いが込み上げる。
かすかに微笑みながら塑像を作ってゆくジュングの姿。
ふたたび、薄目を開けてジュングを見るミンギョン。
相変わらず作業に熱中しているジュング。なんとなく、微笑んでいるように見える。
片側の壁が広く開いているアトリエ。
空と水の境目がないかのように美しい貯水池の風光を背にした二人の姿が絵画のように美しい。
58.ジュングの家、居間 (昼)
ファチェ(花菜)を盆に載せて居間に入ってくるキョンサンデク。
※ファチェ:砂糖水やはちみつ水、または五味子汁にカットした果物や食用花を入れた甘味汁
考え込んでいる様子のジョンスクの整った顔立ちをみつめ
キョンサンデク (独り言) ほんまにお美しいこと。
キョンサンデクの気配に目を開けるジョンスク。
ジョンスク キョンサンデク。
キョンサンデク (慌てて) はい...?
ジョンスク 最近の先生、ずいぶん明るくおなりでしょう?
キョンサンデク ええ、ええ。昔と同じようにしっかりなさいましたよ...
ジョンスク そうよね。しっかりされたわ。(座り直して) 作業は上手くいっているのかしら。
キョンサンデク 実力が衰えるわけやなし。そのうち一回覗いて見はったら?
首を横に振るジョンスク。遠くの山を眺めて...
ジョンスク ミンギョンさんが、恩人よ。本当に...
心が乱れているふうなジョンスクをキョンサンデクがじっと見守る。
ジョンスク、心を手繰り寄せるような表情で、かごを膝の上に載せ、編み物を始める。
ジョンスク 冬が来たら着せてあげようと思って...
キョンサンデク そうですか...
ジョンスク (楽しそうに) そうだわ、オさんに頼んで、アトリエに置く火力の強い暖炉も見てもらわなきゃ。
キョンサンデク (困ったような笑みを浮かべ) はい。
このとき、テーブルの上に置いた電話が鳴り、ジョンスクが受話器を取る。
ジョンスク もしもし?
ホン医師(V.O) ジョンスクかい? わしだ。
ジョンスク あ、はい。ホン先生。
ホン医師(V.O) ジュングがまた作業を始めたって?
ジョンスク (明るい表情で) お知らせしようと思っていたところでしたのに。
ホン医師(V.O) そうか。近いうちに寄るから...
ジョンスク ええ、そうしてください。
頷いて聞いているキョンサンデク。ジョンスクを見てニッコリ笑う。
cut to #57
塑像に、濡らした布を掛けていくミンギョンの姿。
ヘラなど、道具を整理するジュングの姿。
ジュング (笑みを浮かべて) じつに上手いよ。
ミンギョンは布を掛けようとして手を止め、塑像の顔をじっと覗き込む。
誰と言ってわからないように単純に描写された塑像の顔...
ミンギョン そやけど... 顔もこれで完成ですか?
ジュング まあ、そうだね...
ミンギョン 私に似てませんね。
ジュング 特に誰の顔というのではないよ...
ミンギョン (頷いて) ふぅん...
水を汲み上げるためデッキに出るミンギョン。
ジュングは微笑みながら流しに行って袖をまくる。
汲んできた水を流しに空け、ジュングの机を整理するミンギョン。
ミンギョン そやけど... 私は人の顔を見んと、怒ってんのか、悲しいんか、楽しいんか、幸せなんか... やっとわかるのに... (じっと考える様子で) そしたら... 先生は... 人の身体でそんなんを全部表現しはる言うことなんですねぇ? (微笑んで) ほんまにすごいお人や...
洗っていた手が止まり、考え込むジュング。考え込んだ表情のままタオルで手を拭く。
机を整理していたミンギョン、机のそばに置いてあったミニカーをみつける。
まくっていた袖を下ろしながら机に近づいてくるジュングに、
ミンギョン あの... 先生。
ジュング (腕時計を付けながら)...
ミンギョン あの... 裏庭にある車... ほんまに動くんですか?
ミンギョンをじいっと見るジュングの顔。
59.道路 (昼)
果てしなく広がる大地に、せわしなく舞い上がる埃。
ジュングの車がぐんぐん走って行く。
運転するジュング。サングラスをかけたまま、首を横にひねると取っ手をしっかり握りしめて緊張しているミンギョンの姿。
ジュングは、片手で後部座席をまさぐり、麦わら帽子を掴みあげてミンギョンに被らせる。
帽子を受け取って被るミンギョン。だがすぐに、帽子は風に飛ばされてしまう。
驚くミンギョン。首を回して遠ざかる帽子をみつめ、屈託なく笑う。
いつのまに舗装された道路に侵入している車。
ギアを入れ替えるジュング。エンジンがますます大きく唸り、さらに加速する。
風を受けながら楽しそうに運転するジュング。再び首を傾けてミンギョンを見る。
スピードに慣れてきたミンギョン。窓の外に腕を伸ばして風を感じている。
そんなミンギョンの表情を見るジュングの視線...
ジュングの視線に気づき、恥ずかしげに微笑むミンギョンの姿。
(ジャンプ)
海辺に停められたジュングの車。
静まり返った砂浜をぶらぶらと歩く二人。
( No.7につづく )