絶望のゴールが深いほど、底を蹴って浮上するのです
トンネルの出口がどこなのか、勘所さえつかめない時期があった。最悪の泥沼でもがいていた頃、身体にも心にも傷が出来始めた。しかし、希望はどこにでもあるという、明瞭かつ重要なことに気づいて後は、憂鬱だった人生が春のように輝きだした。俳優 パク・ヨンウのストーリーである。
2012年、映画 『パパ』 とSBSドラマ 『わが愛しの蝶々夫人』 が終わった後、しばらく彼はほとんど姿を見せなかった。特別出演した映画 『ファイ』 の中で、短いが強烈な印象を残しはしたもののパク・ヨンウの演技を待ちわびるファンの渇きを癒すには役不足だった。
そんな彼が、再び両腕を伸ばし背伸びを始めた。11月20日に公開された映画 『春』 を通して。パク・ヨンウはこの作品で、一度は生きる目的を失ったが、ヌードモデル ミンギョンに出会い、生きる意志を取り戻す彫刻家ジュングを演じた。
「シナリオを受け取ってすぐ、本能的に感じ取りました。僕が今、思い悩んでいることを、ジュングも同じように悩んだんだなって。ジュングが、生きることと芸術の間で苦しむじゃないですか。僕もまったく同じでした。心情的にとても疲れていた時期で、そんな僕の姿が、ジュングにそのままべっとりと移っていくようでした」
『春』 は、生きる希望をうしなってしまった韓国最高の彫刻家ジュング、そんな彼に最後まで生きる意志を取り戻させようとする妻ジョンスク、貧困と暴力に疲れ果て希望を忘れて暮らしているところにヌードモデルの誘いを受けるミンギョン、の3人に訪れた、人生で最も美しい瞬間を描いた物語だ。海外の映画祭で8冠王を記録し、話題を集めている。映画は、彫刻家とヌードモデル、彼の妻に関するストーリーだが、痴情や不倫とはかけ離れている。ひたすら芸術と人生に対する卓越した省察で物語を牽引してゆく。
「シナリオがじつに美しかった。シナリオ以上に美しく描くことなんてできるだろうかと疑問に思いました。痴情と不倫という味付けが強調され、腹よりへそがでかい映画になりはしないかと気を揉みもしました。だけど監督に会って確信しました。私が最初にキャスティングされた後、半月ほどクロアチアへ行ってきたのですが、その間も監督からひっきりなしにシナリオの修正版が届いたのです。シナリオがもつ本来の意味を壊さないようにとの監督の態度を見ながら、ますます信頼するようになりました」
ジュングは一時、当代最高の彫刻家であったが、死を目前にして芸術と命に対する意志を手放してしまう。そんな彼を傍らで黙って支える妻ジョンスクは、ミンギョンを夫のヌードモデルとして連れてきてジュングが活力を取り戻すことを願うのだ。ジュングはジョンスクの希望どおりミンギョンと彫刻作業を開始し、生きることと芸術に対するスイッチを入れた。ジュングとミンギョンは、彫刻家とヌードモデルという関係を越えて深い友情で結ばれるようになり、お互いの人生に春の兆しを吹き込んだ。ともすれば痴情劇に陥りそうな設定であるが、映画は最後まで浮気心を起こさない。
「初稿には、ジュングとミンギョンの間に微妙なつなわたり、つまりラブラインがありました。ですが、監督が全て省いてしまわれた。私としては商業的なことを考えたときに、ラブラインがあった方がいいと思ったのですが、監督はまったくそんなことを考えておられなかった。結果的に、不倫、痴情劇のない 『春』 を観客のみなさんはより好感をもって観て下さり、新鮮に感じてくださるようです」
パク・ヨンウは、このたびの作品で全裸シーンに挑戦したイ・ユヨンと、ほとんどの場面で呼吸を合わせた。新人女優として決して簡単ではない演技を披露したイ・ユヨンに、彼が現場で与えたアドバイスとは何だろうか。
「先輩だからって演技を教えるなんてもっての他だと思っています。教えたからってその通りになるものでもないし。大切なことは、新人だろうと子役だろうと目の高さを合わせて一緒に考え、尊重して認めることです。ユヨンさんには、監督に叱られてもいいから演じたいように演じればいい」と話しました。とても慎重になってましたからね」
最後に、長い長いトンネルを抜け出すことができたきっかけを訊いてみた。「答えはないが、希望はある」という、賢明な回答が返ってきた。どこにでも見出すことのできる希望に気づかないまま、絶望ばかりを取り上げていたのがこれまでだったと。
「希望はいつもあるんです。本の中にも、食事をしているときにも、彼だを動かしているときにもあって、演技にも、恋人とデートするときにもあります。それを選びさえすればいいのに、たったそれだけのことが難しいのです。希望よりも絶望、怠惰、挫折を掴んでしまいやすいものです。ジュングもやはりミンギョンに出会うまでは、挫折を選んだ人物でした。言いかえれば、完全な意味でのどん底なんてないんですよ。底が深ければ深いほど、蹴って上昇することができる。暗闇があるからこそ、光があるじゃないですか」
(訳文文責:ハギ)
クロアチアへ旅立たれる前、と言えば、ハギはSNLの公開放送で初めて生のニムを拝見し、ヒョジュサンの配慮で名前入りのサインまでいただいて、浮かれに浮かれていた時期でした。
SNLで拝見したニムは本当に楽しそうで、心から楽しんで出演されているものとばかり信じて疑いませんでした。
それが、人生のどん底と言えるほど辛い時期だったなんて・・・・・・
あちこちのインタビュー記事でニムのそんな発言を読むたび心が苦しく、ニムの苦しみにまったく気づけずにいた自分が嫌で、ひどい自己嫌悪に落ち入ってしまった私は、ついあちこちに自分の落ち込みを書き込んでいたところ、そのつぶやきを目にされたニムが、
「絶望について話すのは、今の希望と情熱を強調したいから。苦しんでこそ成熟することができますからね」というコメントをくださり、その後は心なしか<絶望>について、さらっと流されるようになった気が・・・
ああ、またまたやってしまった
ニムの頭の中にイメージされている私はきっと、「小言ばばぁハギ」に違いない